古代エジプト、アジア、ヨーロッパ、アメリカの美術をはじめ、幅広いコレクションを有するボストン美術館。2020年に設立150周年を迎え、現在も拡張を続けています。
エジプトのファラオ、ヨーロッパの王侯貴族から日本の天皇、大名をはじめ、古今東西の権力者たちに関わる作品を紹介する展覧会が、東京都美術館で開催中です。
東京都美術館「ボストン美術館展 芸術×力」
展覧会の1章は「姿を見せる、力を示す」。古代エジプトのファラオや皇帝ナポレオンなど、統治者は威厳のある姿で描かれますが、日本美術では天皇の姿があからさまに描かれることはほとんどありません。
本展で里帰りを果たす、ふたつの国宝級絵巻のうちのひとつが、ここで早速登場します。平治の乱をテーマとした絵巻です。
藤原信頼と源義朝が三条殿を襲撃し、後白河上皇を拉致する場面を描いたもの。緊迫の場面が実に細やかに描かれており、鎌倉時代に流行した合戦絵巻の中でも最高傑作のひとつに数えられる傑作です。
《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)鎌倉時代、13世紀後半
2章は「聖なる世界」。宗教的な儀式を執り行うことも、為政者の重要な役割のひとつです。為政者は、聖なる世界と俗なる地上の世界をつなぐことで自らの力を人々に示し、その力をさらに強めてきました。
シエナ派の特徴がみられる《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》は、14世紀の祭壇画です。三連祭壇画の一部であったと考えられますが、現存しているのはこの中央部のみです。
《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》ニッコロ・ディ・ブオナッコルソ 1380年頃
3章は「宮廷のくらし」。支配者は力と富の表象として、住居に贅を凝らし、豪華な調度品を揃えました。
目を引く大粒のエメラルドが施されたブローチは、マージョリー・メリウェザー・ポスト(1887-1973)が所有したブローチです。父から大手食品会社を受け継ぎ、世界で最も裕福な女性の一人とされた彼女は、ロシア美術をはじめとする数々の美術品を収集しました。
《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》オスカー・ハイマン社 、マーカス社のために製作 アメリカ、1929年
4章は「貢ぐ、与える」。芸術の力は、外交の場においても効力を発揮します。美しく豪華な贈り物は、相手の心を掴むとともに、自らの権勢を示すことにも繋がります。
《水差しと水盤》は、金で縁取られた枠の中に、エリザベス1世までの歴代イングランド王の肖像が彫られています。水盤に水と香水を入れ、宮廷の儀式や賓客をもてなす際に使われたと考えられています。
《水差しと水盤》逆Lの印の製作者、MにPを重ねたモノグラムの金工師 イギリス、1567-1568年
5章は「たしなむ、はぐくむ」。権力者たちは、芸術のパトロンにもなります。彼らが支援した芸術家の作品が今日まで伝えられ、世界中にある美術館や博物館の礎となっています。
国宝級絵巻の二つ目《吉備大臣入唐絵巻》は、ここで登場します。奈良時代に活躍した学者・政治家の吉備真備(695-775)の活躍を描いた絵巻ですが、科挙試験でカンニングする、囲碁対決で碁石を飲み込むなど、現在の感覚だと卑怯に思える行動が多いのもユニークです。
《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末
会場最後は、江戸時代に伊勢長島藩を治めた大名、増山雪斎(1754-1819)による《孔雀図》です。江戸中期に来日した中国人画家・沈南蘋の画風を良く学んだ逸品です。
背後に描かれた海棠(かいどう)と牡丹という組み合わせは、人々が富み栄えることを意味する「満堂富貴」(まんどうふうき)と呼ばれる画題です。
《孔雀図》増山雪斎 江戸時代、享和元年(1801)
展覧会は当初、2020年4月に開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が延期に。当初予定より2年あまり遅れて、待望の開催となりました。
東京会場のみの開催になってしまったのは残念ですが、出展作品の半数以上が日本初公開です。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月23日 ]
※すべてボストン美術館蔵