旅行やお墓参りなど、いつもとは少し違う経験をする夏休み。「美術館の夏休み」も、いつもの美術館は少し違う雰囲気です。
現代美術家の表現と古美術作品、アートとプロダクトなど、普段は一緒に展示されることが少ない作品がコラボレーションする、ユニークな展覧会が千葉市美術館で開催中です。
千葉市美術館「とある美術館の夏休み」会場入口
展覧会は3章構成。1章「美術館をときほぐす」では、中﨑透、ミヤケマイ、清水裕貴、津田道子の作品を展示。普段注目される「作品」以外で、あまり意識されない側面から美術館を見つめ直します。
中﨑透は、開館当初から千葉市美術館に関わっているベテラン学芸員2名にインタビュー。学芸員の言葉と所蔵作品、中﨑の作品で、展示空間を構成しています。
学芸員による開館に至るまでのプロセスの説明と、現在アートシーンについての考え方は、つい読みふけってしまいます。やや裏話的なコメントもあり、ちょっとドキドキします。
中﨑透
津田道子は、恩地孝四郎の版画作品を使ったインスタレーションです。恩地の《白亜(蘇州所見)》は白い壁に囲まれた空間の作品ですが、津田は作品をバラバラのパーツにしたかと思えば、正面のモニターには《白亜》そっくりの風景が。千葉市美術館の中に《白亜》そっくりの場所を見つけて、動画として上映しています。
さらに奥には、恩地の《空旅抒情》をテーマにしたインスタレーションもあります。
津田道子
2章「作品と出会い直す」は、目[mé]、小川信治の作品。千葉市美術館が所蔵している現代美術家の作品について、その作家があらためて自分の作品と出会い直し、新たなインスタレーションとして構成します。
架空の初期ルネサンス風肖像画である、ポルティナーリ家のマリアとマルゲリータは、小川信治の作品です。肖像画は背景の左右が繋がっており、顔の部分で切断しても、背景の風景が成立する円環の世界になっています。謎を孕んだ空間表現は、小川が得意とするところです。
小川信治
3章「日常で表現する」は、華雪、きぐう編集室、山野英之、井口直人×岩沢兄弟、Mitosaya薬草園蒸留所、井上尚子、文化屋雑貨店。奥のエリアは(new) service(西舘朋央+Rondade)が手がけました。さまざまな時代において、作家たちは日常と地続きで表現活動を行います。それらの表現が「作品」になり、美術館に蓄積されていきます。
井上尚子は、所蔵作品から食物の五味である甘・酸・辛・苦・鹹(しおからい)をテーマに掛け軸を選び、各作品から想起される匂いを、ガラスの瓶に入れました。
ガラス瓶は、ダクトをイメージさせる緑色の什器に入っており、鑑賞者は蓋を取って匂いを嗅ぐことができます。
井上尚子
会場最後は、圧倒的な物量の文化屋雑貨店。役者絵や美人画、動物など、「顔力」があるさまざまな江戸時代のモチーフを、ユニークな雑貨にしました。
ミュージアムショップでも文化屋雑貨店の商品を販売しています。
文化屋雑貨店
ポップなメインビジュアルのイメージから、いわゆる「夏休みの子ども向け」を意識した展覧会かと思っていると、良い意味で予想を裏切られます。
目の肥えた現代アートファンも喜んでいただける、重量感あふれる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月19日 ]