今年4月に再開した国立西洋美術館で、リニューアルオープン記念展がスタート。ドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館が協力し、自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代の芸術の展開をたどります。
会場は展示室に入る前から美しい演出が。左側から進んで変わっていく光の色を見ながら、自然のうつろいを感じてください。
国立西洋美術館「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」 展示室前
1章は「空を流れる時間」。天気や時間、季節などにより絶えず光は変化します。それらの瞬間的な表情をとらえるために、画家たちはさまざまな表現を模索しました。
モネとリヒターの作品が並ぶこの一角は、とても印象的です。河で舟遊びに興じる女性たちを描いたモネに対し、リヒターは写真にもとづいて雲を描きました。
(左から)クロード・モネ《舟遊び》1887年 国立西洋美術館 松方コレクション / ゲルハルト・リヒター《雲》1970年 フォルクヴァング美術館
2章は「『彼方』への旅」。近代化が進んだ18世紀末になると、自然に対する新しいとらえ方が広まっていきました。芸術家たちは未知の風景を求めて、遠方へと旅立っていきます。
自然界の崇高さをあらわす存在として、屹立する高山や広大な海は格好の画題になりました。カールスが描いたのは堂々たるモンブランの大氷河、クールべは渦巻くように生成される波を描いています。
(左から)カール・グスタフ・カールス《高き山々(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒにもとづく模写)》1824年頃 フォルクヴァング美術館 / ギュスターヴ・クールベ《波》1870年頃 フォルクヴァング美術館
ゴーガンは文明から遠く離れたタヒチに滞在。原始的な自然の生命力に、自らの芸術の活路を見出そうとしました。
ゴーガンの表現は同時代の若い画家たちに多大な影響を及ぼしており、20世紀のプリミティヴィスムの開拓者ともいえます。
(左から)ポール・ゴーガン《扇を持つ娘》1902年 フォルクヴァング美術館 / ポール・ゴーガン《海辺に立つブルターニュの少女たち》1889年 国立西洋美術館 松方コレクション
3章は「光の建築」。19世紀末から20世紀初頭になると、自然の本質的な構造や法則を理知的に把握しようとする動きも出てきました。
代表格といえるのがセザンヌです。自然がもたらす鮮烈な身体的感覚を実現するため、自然に匹敵する絵画空間の構築を目指しました。
(左から)ポール・セザンヌ《ベルヴュの館と鳩小屋》1890-1892年頃 フォルクヴァング美術館 / ポール・シニャック《サン=トロペの港》1901-1902年 国立西洋美術館
最後の4章は「天と地のあいだ、循環する時間」。自然は誕生と消滅を繰り返し、古い生命から新しい生命へと、いのちは循環していきます。
展覧会の目玉である《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》は、ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画の代表作です。麦を刈る人物に「死」を、刈られる麦のなかに「人間」のイメージを見たとされており、本展が初来日です。
(左奥から)カミーユ・ピサロ《収穫》1882年 国立西洋美術館 旧松方コレクション / フィンセント・ファン・ゴッホ《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》1889年 フォルクヴァング美術館
最後のコーナーにはモネの睡蓮が並びます。
晩年、モネはジヴェルニーの屋敷の前に日本風の庭園を造成。大きな池を前にモネは睡蓮の連作に没頭しました。細部を大胆に省略した表現は、後の表現主義や象徴主義にもつながり、モネの革新性を示しています。
上部が欠失した《睡蓮、柳の反映》は2016年にパリで発見され、修復された作品です。
(左から)クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916年 国立西洋美術館 旧松方コレクション / クロード・モネ《睡蓮》1916年 国立西洋美術館 松方コレクション
フォルクヴァング美術館と国立西洋美術館は、それぞれ、カール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)と松方幸次郎(1866-1950)の個人コレクションをもとに設立されました。
ふたつのコレクションを対話(ダイアローグ)させるような展覧会。日本ではあまり知られていない作品も数多く出品されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年6月3日 ]