全館改修工事のため、2021年9月から休館していた三井記念美術館。照明がLEDに、床の張り替えなどが行われ、7カ月ぶりに再開となりました。
リニューアル記念の展覧会は、館蔵の陶磁器を中心に紹介する二本立て。まずは「絵のある陶磁器」として、陶磁器に描かれた絵の世界に注目していきます。
三井記念美術館「絵のある陶磁器」会場入口
改修工事は空調機械設備の更新などが主体で、展示室の構成は以前と変わっていません。
日本で陶磁器の器体に絵が描かれたのは、桃山時代に美濃で焼かれた志野や織部から。いずれも茶の湯の陶器です。
野々村仁清は、京焼色絵陶器の完成者。一部に土膚を残して釉を流し掛ける「掛け切り」は、仁清独自の装飾技法です。
野々村仁清《色絵蓬菖蒲文茶碗》江戸時代 17世紀
展覧会において注目の工芸品などが展示されるのが、奥の展示室2。今回は尾形乾山の優品です。尾形光琳の弟・乾山は、仁清に陶法を学びました。
《銹絵染付笹図蓋物》は角が丸くなった撫四方(なでよほう)の蓋物で、懐石の器です。
尾形乾山《銹絵染付笹図蓋物》江戸時代 18世紀
展示室3にあたる「如庵ケース」は、茶道具の取り合わせ。
端午の節句にちなんで、茶碗は永樂保全の《色絵兜菖蒲文平茶碗》。床の《祇園祭礼図》は織田信長から千利休が拝領したものと伝わります。
展示室3「如庵ケース」
大きな展示室4は永樂保全と永樂和全の作品です。
永樂保全は、京焼の家元・永樂家(江戸時代は西村姓)の十一代善五郎。保全は十代善五郎(了全)の養子で、両者は協力して陶磁器の写し物を手掛けました。
目を引く茶碗は、弘化4 年(1847)暮れに、北三井家七代高就の還暦の祝いの席で、保全から高就に贈られた重茶碗(かさねちゃわん)です。三井家の四ツ目結紋と桐紋が金で描かれています。
永樂保全《金襴手四ツ目結桐紋天目・飲中八仙人図重茶碗》江戸時代 弘化4 年(1847)
永樂和全は保全の息子で、十二代善五郎。仁清を慕って、御室仁和寺門前の仁清窯跡に窯を築いて作陶をはじめました。
幕末には加賀に移って九谷焼再興の技術指導を行い、後に京都に戻って明治15年に東山高台寺の近くに菊谷窯を開きました。
《染付扇絵火入・貫入塗たばこ盆》は、火入が和全の作。胴の見込み底に扇の絵が描かれており、古染付の写しと思われます。
火入:永樂和全《染付扇絵火入・貫入塗たばこ盆》江戸~明治時代 19世紀
永樂和全の作品展示室5にも続きます。《淀屋金襴手写吸物碗》は淀屋金襴手茶碗の図柄を吸物碗に写したものですが、図柄を身と蓋に分け、描写もアドリブを利かせています。
蓋裏には金地の中央に「寿」と記されています。
永樂和全《淀屋金襴手写吸物碗》江戸~明治時代 19世紀
小さな展示室6は東洋陶磁の香合。
《祥瑞蜜柑丸文香合》は蓋の頂部に茎がつまみのようになっており、この種の香合はその器形から蜜柑香合と呼ばれます。
器表にも蜜柑を輪切りにしたような小さい丸文が描かれ、染付の発色も美しい作品です。
《祥瑞蜜柑丸文香合》明時代 17世紀
最後の展示室7は東洋陶磁。保全や和全が写しの手本とした中国陶磁のなかから、絵がある作品が展示されています。
絵高麗は、かつて茶人の間で、産地がわからないものを「絵がある高麗物」として呼んだ呼称。この水指は胴の部分に鉄絵で兎と草花が素早い筆致で描かれています。
(右手前)《絵高麗水指》明時代 15~16世紀
リニューアルで大きく変わったのがミュージアムショップ。レストランが無くなった分、奥にスペースが広がり、面積が大きく拡大。授乳室とドリンクの自販機が設置されました。
リニューアル記念展の第2弾は「茶の湯の陶磁器」。器の中に自然を見出す茶道具独特の審美眼を取り上げます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年4月28日 ]