東山五条の住宅街の一角。京都を拠点に活躍した陶芸家・藤平伸(1922-2012)の住まい兼アトリエが藤平記念館として年に2回(春期と秋期)公開されています。
記念館の入口には藤平伸の写真
1970年藤平の設計により建てられ、吹き抜け部分のステンドグラス、蒐集していたアンティーク家具や古道具など味わいのある空間が広がっています。また古い蔵から譲り受けた柱や梁がどっしりとした空気を醸し出し、どこか懐かしさも覚えます。
2階の吹き抜けから撮影
何気なく飾られた古道具。蚤の市などで形に惹かれて購入していたという
この春期は藤平伸生誕100年を記念し、「寿ぎ」をテーマに主におめでたい作品が展示されています。
陶作品に使われている淡いピンク色が目を惹きます。この赤味は、「辰砂(しんしゃ)」という釉薬によるもの。窯の温度や使用量などにより表情を変えるおもしろさに魅了され、1980年代から藤平が好んでよく使用していたそうです。春の陽のような色味が、見る者の気持ちを柔らかくしてくれます。
《呉須飾筥》1997年
左/《桃飾筥》 右/《葡萄飾筥》 共に2002年頃
《飾り鯛》2000年頃
《三唐子》2000年頃
会場には陶だけではなく羽子板絵や短冊なども紹介されており、絵画や書など彼の幅広い創作活動を知り得ます。
伸びやかな線と文字が魅力の羽子板
スケッチブックも公開
どの分野においても藤平の作品には軽やかさがあります。次々と浮ぶイメージを余すことなく表現しようとしているかのようです。「制作のスピードはとても早かったです。」とご息女である藤平三穂さんは振り返り、「書道を習っていた母(藤平の妻)が自宅で何枚も練習する様子をみて、『最初に書くものが一番いいのだから、何枚も練習しなくていい』と言っていたこともありました。」と懐かしく話してくださいました。
藤平の創作に対する意識を感じつつ、藤平を身近に感じた瞬間でもあり貴重なひとときとなりました。
展示風景
顔と手足部分は陶。藤平が制作し、胴体はお弟子さんが作ったそう
陶製のネコの形をした枕。表情がユニーク(常設)
記念館を訪れたら、どうぞ隅々まで堪能してください。枠にはまらず湧き出すイマジネーションを表現した藤平の世界観に身をゆだねてください。コロナ禍でぎゅっと小さくなってしまった私たちの気持ちを解きほぐし、広い世界へと誘う羽根をもらえる、そんな気持ち良さを与えてくれることでしょう。
トイレのドアノブ
外壁に掲げられた表札
東山五条交差点にあるカフェ(元・藤平陶芸店)には藤平の壁画が今も残されている
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年4月17日 ]
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