宝飾品として広く親しまれ、多くの人を虜にする宝石。古代には魔よけやお守り、地位や立場を示すシンボルとしても用いられてきました。
宝石の生い立ちから輝きの秘密まで、科学的・文化的な視点で紹介していく展覧会が、国立科学博物館で開催中です。
国立科学博物館 特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」会場入口
展覧会は第1章「原石の誕生」から。宝石のもとになる原石は、地下の深いところで誕生した鉱物です。長い年月をかけてさまざまな化学反応が起こり、多様な化学組成をもった鉱物が生まれます。
フォトスポットとして人気を集めそうなのが、アメシストドーム。アメシスト(紫水晶)は、熱水に溶け込んでいたシリカ(酸化ケイ素)が地下で析出した結晶。本来は無色ですが、鉄分がわずかに取り込まれることで、紫色に発色します。
第1章「原石の誕生」 アメシストドーム
第2章は「原石から宝石へ」。良い宝石をつくるためには、原石だけでなく成形と研磨の技術、すなわち「カット」の出来映えが非常に重要になります。この章では、原石が宝石になるプロセスを中心に紹介しています。
目を引くのは、個人コレクターの橋本貫志氏による宝飾品コレクション。古今東西から貴重な指輪を集めた珍しいコレクションです。2012年に国立西洋美術館に寄贈されました。
第2章「原石から宝石へ」 橋本コレクション
続いて第3章は「宝石の特性と多様性」。美しく、耐久性がある宝石。その秘密は、宝石が持つ光学特性と、靭性(衝撃に対する強さ)や化学的安定性などに隠されています。
この章ではラフ(原石)やルース(磨いた石)をメインに、200種を超える宝石を展示。それぞれの特性が紹介されています。
第3章「宝石の特性と多様性」
ここではよく知られた宝石だけでなく、珍しい展示も。区切られた小部屋で紹介されているのは「光る宝石」です。
ダイヤモンドやルビーには、紫外線を当てると光るものがあります。また、蛍石(フローライト)や方解石などは、紫外線を当てると美しく光ります。
第3章「宝石の特性と多様性」 光る宝石
ここまでは鉱物としての特性が中心でしたが、ここからはいよいよジュエリーとしての宝石。第4章「ジュエリーの技巧」では、宝石の「仕立て」に着目します。
カットされて美しく輝くルース(磨いた石)は、貴金属でできたベゼル(台座)に収めることで、ジュエリーになります。ルースを固定する技法(セッティング)は、宝石を際立たせるためにとても重要です。
第4章「ジュエリーの技巧」 (右手前)アメンタ ネックレス 〈アトランティド〉コレクション ヴァン クリーフ&アーペル所蔵
フランス・パリに本店を構えるハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーペルや、日本ならではのデザインが特徴的な、兵庫県芦屋市発のジュエリーブランドであるギメルが所蔵する美しいジュエリーが並ぶこの章。
華麗なデザインの数々は、多くの人の注目を集めそうです。
第4章「ジュエリーの技巧」 日本の四季をイメージした宝石デザイン「夏」
最後の第5章「宝石の極み」は、さらに豪華。有川一三氏が世界中から集めた世界的な宝飾芸術コレクション、アルビオン アート・コレクションが紹介されています。
古代の人々が願いや祈りを込めていた宝石は、ルネサンスの時代には権力の象徴になりました。そのため、人々の目にとまりやすいブローチやネックレスに仕立てられました。
第5章「宝石の極み」 ヴュルテンベルク王室旧蔵 ピンク・トパーズとダイヤモンドのバリュール 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
こちらは、ピンク・トパーズとアクアマリンを主とした、ネックレス、イヤリング、ブレスレット、ブローチ、髪飾りのパリュール(セット)。
ナポレオン帝政における軍将、トレヴィーゾ公爵モルティエ元帥が、娘の結婚に際して作らせたものです。
第5章「宝石の極み」 ナポレオンの名将モルティエ元帥よりリュミニー侯爵夫人へ送られたピンク・トパーズとアクアマリンのパリュール 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
いかにも科博らしい硬派な解説からはじまり、うっとりするような後半の展示まで、宝石の魅力を幅広く紹介する展覧会。
二ノ宮知子さんによる漫画『七つ屋志のぶの宝石匣』ともコラボレーションし、主人公のふたりが会場で展覧会を案内しています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年2月18日 ]