17世紀オランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》が、修復により当初の姿を取り戻しました。
所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館でのお披露目に次いで、ついに世界初公開。東京都美術館での特別展が始まりました。
東京都美術館 企画展示室「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」会場入口
展覧会には17世紀オランダを代表する画家たちの名品、約70点が紹介されていますが、もちろん目玉はフェルメール の《窓辺で手紙を読む女》。早速、ご紹介しましょう。
作品は、フェルメールが風俗画に転向して間もない初期の傑作。窓から差し込む光の表現や、室内で手紙を読む女性像など、フェルメールが自身のスタイルを確立したとされる作品です。
ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)1657-59年頃
壁面にキューピッドが描かれている画中画が塗り潰されていることは、1979年のX線調査で分かっていましたが、長年、フェルメール 自身が塗りつぶしたとされていました。
ところが最新の調査で、塗りつぶされたのはフェルメールの死後だったということが判明。キューピッドがある状態こそが、フェルメールが描いた構図だったのです。
会場には修復前の2001年に描かれた複製画も展示。見比べて楽しむことができます。
ザビーネ・ベントフェルト《複製画:窓辺で手紙を読む女》(フェルメールの原画に基づく)2001年
現れた画中画には、愛の神であるキューピッドが嘘や欺瞞を象徴する仮面を踏みつける場面が描かれているので、誠実な愛の勝利を表すと思われます。
画中画が隠された理由はわかっていませんが、ひとつのヒントが、この絵の作者が1742年にはレンブラントとされていたこと。当時、フェルメールの知名度は低く「よりレンブラント風に見せるため」に塗りつぶされたのかも知れません。
ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)1657-59年頃
他の出展作品から、ジャンル別に目についたものもご紹介しましょう。
オランダの肖像画は、17世紀に目覚ましい発展を遂げました。レンブラントによる《若きサスキアの肖像》は、描かれている女性の顔の特徴から、翌年に結婚するサスキアと考えられています。
ただ、古代風の衣装や、顔の上半分に差す影などから、本作は一般的な肖像画ではなく、「トローニー」と呼ばれる頭部習作の一つと考えられます。
レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》1633年
風景画も17世紀のオランダで人気を博したジャンルでした。多くの画家が風景画や海景画、都市景観画を描き、オランダ市民にとってこれらを所有することは、文化的な生活と結びついていました。
ファン・ライスダールは、この時代を代表する風景画家です。《牡鹿狩り》は右前景に折れた大木を描き、はかなさと死を暗示させています。
ヤーコプ・ファン・ライスダール《牡鹿狩り》1665-70年頃
神話や宗教の物語を描いた歴史画は、当時の絵画のジャンルの頂点でした。フェルメールを含めて多くのオランダの画家が歴史画を描いているのも、絵画市場で一目置かれるためでした。
ハガルの追放は、妻との間に子ができたアブラハムが、愛人のハガルとその子イシュマルを追放する旧約聖書の場面です。服装などは、描かれた当時の風俗を取り入れています。
ヤン・ステーン《ハガルの追放》1655-57年頃
展覧会は新型コロナの影響で、約2週間遅れてスタート。フェルメールは日本でも特に人気が高いので、多くのファンが楽しみにしていたのではないでしょうか。
「新たな作品」といって良いほどの変貌でお目見えした《窓辺で手紙を読む女》。平日も含めて日時指定制ですので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年2月9日 ]