歴史の殿堂として知られるイギリスの大英博物館。古代エジプト文明の分野でも知られており、最新の科学的手法による研究で多くの知見を得てきました。
6つのミイラをCTスキャンで分析し、外側からは分からないミイラの謎に迫る注目の展覧会が、国立科学博物館で開催中です。
国立科学博物館 特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」
展示されているのは、前800年頃から後100年頃に生きた6つのミイラ。それぞれのミイラには、それぞれの物語があります。
最初は「アメンイリイレト テーベの役人」。カシュタ王(前760~前747年頃)の娘、アメンイルディスの所領を管理していた役人で、その地域の名士です。
厚さ12cmにもなる亜麻布で包まれ、胸部から足首まで、豪華なビーズネットで覆われていました。
「アメンイリイレト テーベの役人」
続いて「ネスペルエンネブウ テーベの神官」。テーベ(現ルクソール)で最も重要な宗教施設であった、カルナク神殿の神官です。
包帯の中には数多くの護符や装身具が安置されていました。ミイラの棺には、ハヤブサとタマオシコガネ(フンコロガシの一種)で表された太陽神(ケプリ神)や、オシリス神などの文様が描かれています。
「ネスペルエンネブウ テーベの神官」
次は「ペンアメンネブネスウトタウイ 下エジプトの神官」。こちらも神官ですが、100年ほど後の時代になります。
特徴といえるのが、ミイラ作りにおいて通常取り除かれることの多い脳が残されていること。ミイラ作りの手法は時期や地域によって変化した可能性があると考えられます。
「ペンアメンネブネスウトタウイ 下エジプトの神官」
続くミイラは女性で、「タケネメト テーベの既婚女性」。3層の入れ子状になった棺の中に納められていました。死亡時の年齢は35〜49歳と推定されますが、内棺には若い女性として描かれています。
CTスキャンの結果から、髪は頭頂部で束ねられてミイラにされていたことも判明しました。
「タケネメト テーベの既婚女性」
続いて「ハワラの子ども」。子どもの遺体は、古代エジプトではミイラにされることはほとんどありませんでしたが、このミイラがつくられたグレコ・ローマン時代(前332~後395年)になると、子どものミイラも増加しました。
このミイラは3〜5歳の男の子で、頭部の布には、大きな目の肖像が繊細に描かれており、裕福な家の子どもだったことがわかります。古代エジプト人にとって、家族は生活の中心でもありました。
「ハワラの子ども」
最後は「グレコ・ローマン時代の若い男性」。グレコ・ローマン時代のミイラは、技術や様式に変化が見られます。この若い男性のミイラは、棺に詳細が表記されていないため、個人についての情報は判明していません、
CTスキャンの結果、このミイラは胸部と腹腔が大きく破損していることがわかりました。ミイラ化された後に、価値の高い護符が取り出されたとみられています。
「グレコ・ローマン時代の若い男性」
ミイラ以外も、約250点に及ぶ貴重な古代エジプトの遺物を展示。さらに発掘調査の最前線として、サッカラ遺跡で発見されたローマ支配時代のカタコンベ(地下集団墓地)は、実寸大の部分模型で再現されています。
科博の展覧会らしく鋭い切り口で、ミイラの本質に迫る展覧会。古代エジプトファンの方は、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年10月14日 ]
※写真はすべて報道内覧会で許可を得て撮影。すべて大英博物館蔵。