展示風景
目の前に広がる数々の着物。着物というより「デザインされたもの」というべきでしょうか。どれから見ようかと迷うほど、会場に入った途端に圧倒されてしまいました。
本展では、友禅の人間国宝、森口邦彦の初期から最新作まで、着物の代表作やそれらの草稿、芸大在学中のデッサンや留学時代に取り組んだ課題など、前期後期の展示を通して約250点を紹介。まさにそれは森口の創作活動の歴史でもあり、半生そのものです。
展示風景
展示風景
森口は、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)を卒業後、パリの国立高等装飾美術学校で約3年間、家具や内装デザイン、グラフィックアートなどを通し、デザインの技術や構成力を学びます。
展示されているその時の課題がとても生き生きとしていて、彼の現地での充実ぶりが想像できます。
会場に並ぶ着物と一緒に見ることで、パリで学んだことが彼のそれからの人生にとって大きな意味のあることだったと確信します。
展示風景
展示風景
森口は、着物を制作するにあたり、何十枚もの草稿を描くそうです。
今回、一部の着物はその草稿とともに展示されていました。完成までの過程の一部を見るだけでも、森口がその着物に費やした時間を追体験しているような気分になれます。また貴重な資料を見られた喜びも感じます。
森口の着物は、無機質な幾学的模様で構成されながらも、花、雪、水、光など自然が表現されていて、最初はクールさにしびれるのですが、徐々に日本の四季の情景が浮かび、うっとりしてしまいます。
西洋的、東洋的感覚が一方に偏り過ぎることなく、成立されていることに感心します。それは、彼が芸術家であり友禅染の職人でもあることが通じているのではないかとも思いました。
着物以外にも、平面作品や三越ショッピングバッグを使ったインスタレーション、フランスの国立陶磁器製作所セーブルとのプロジェクト品など、見応えのある展覧会です。
あ、今展の図録のチェックもお忘れなく!森口事典と言いたくなるほどのボリュームでなんと厚さ約6㎝。そして装丁は、展示されている作品とリンクしています。
三越ショッピングバッグ「実り」を使ったインスタレーション(部分)
4階のコレクション展には、邦彦の父である森口華弘の着物も紹介されています。受け継がれているもの、そして邦彦が切り拓いたものを、華弘の作品を通しても感じさせられるのでした。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2020年10月12日 ]
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