サントリー美術館リニューアル後はじめての展覧会はリニューアル オープン記念展Ⅰ「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」です。
本展はこれまで同美術館が「生活の中の美」という基本理念のもとに収集してきた日本の美と4人の現代作家(山口晃、彦十蒔絵・若宮隆志、山本太郎、野口哲哉)とのコラボの試みでした。
深見陶治《遙カノ景〈空へ〉》1996年、サントリー美術館
第1章では「装い」というテーマで古くからの日本の生活を彩ってきた「化粧」「被服」「装飾品」に関連した道具類が展示されていました。
第1章1節「装い:浮線綾螺鈿蒔絵手箱と化粧道具」
誰が袖図とは衣桁に掛けられた衣装や道具を並べて、持ち主の面影を偲ぶという趣向で描かれる屏風絵です。
金屏風の前に道具を配して屏風絵を再現した《再現:誰が袖図屛風》、江戸時代の屏風絵である《誰が袖図》、そして山本太郎による現代の《誰ケ裾屛風》が一面に並べてられていて、粋な計らいの展示でした。
再現:誰が袖図屛風
鏑木清方の《春雪》では、無事に帰宅した夫の羽織を畳む姿の中に、身に着けていた夫への深い愛情を感じます。
着物とは単に被服という日常品にとどまらず、身に着けた人への想いの対象にもなるものだということを本展を通して思いました。
左から:《浅葱紋絽地流水花束模様小袖》、18世紀後半~19世紀、鏑木清方《春雪》1946年、いずれもサントリー美術館 【展示期間:~8/17まで】
上から《銀太刀形変わり簪》《銀サの字平打簪》、いずれも19世紀、サントリー美術館
今回の見どころの一つは女性の髪を飾るたくさんの櫛や簪が展示されているところです。
女性の装飾品というと花や動物といった愛らしいものばかり思いつくのですが、こちらの簪は「太刀」や「サの字」というちょっと変わり種です。
身に着ける人の安全や身近な人の名前の一文字などといった思いが込められた品なのでしょうか。
菱川師宣《新板小袖御ひいなかた》、1677年、サントリー美術館
こちらは菱川師宣の「ひいなかた」です。※8/19~場面替あり
ひいなかたとは図案を集めた見本帳の事で、今でいうスタイルブックのようなものだそうです。 「浮世絵の祖」といわれる師宣も服飾デザイナーのような仕事をしていたと考えると興味深いです。
水島卜也他編《化粧眉作口伝(巻子本)》、1694年、サントリー美術館 【展示期間:8/17まで】
本展では眉の描き方や髪の結い方など多くの化粧法を記した資料がありました。現代の私たちがYoutubeでメイクの仕方やヘアスタイルの整え方の情報を得るのと同じようなものですね。
女性たちの美の追求は時代が変わっても変わらないのだとおもわず笑みがこぼれます。
展示室風景
野口哲哉の鎧兜を着た小さな人物が屏風絵を見入っている展示はユーモアがあって楽しいものでした。 よくよく見ると某美術館のショッピングバッグらしきものを提げている人物もいます。
手前左から:野口哲哉《THE MET》、《RED MAN 2016》、《Avatar 1―現身―》、《FRONTEER》、Un samuraî vient》いずれも個人蔵 奥:賀茂競馬図屛風 サントリー美術館
山口晃《今様遊楽圖》、2000年、高橋龍太郎コレクション
山口晃の作品は、古い時代を描いたもののようですが、実は不思議な世界です。
現代の風俗が江戸時代の風景の中にこっそりと入り込んでいるので、じっくりと観てぜひその面白さをご体験ください。
山口晃《厩圖》、2001年、山口龍太郎コレクション
生活の中の美を見るとき、昔の人の美的感性の豊かさ、生活を楽しむゆとりを感じます。
今を生きる私たちも日々制約のある暮らしを強いられていますが、日常を楽しむ気持ちを持ち続けたいなと思った展覧会でした。
《朱漆塗湯桶》、15世紀、サントリー美術館
[ 取材・撮影・文:松田佳子 / 2020年7月21日 ]
エリアレポーターのご紹介 | 松田佳子 湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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