上村一夫さんは横須賀生まれ。思春期の頃にホステスが身近にいる五反田の花街で暮らしていた事が、後の創作にもさまざまな影響を与えました。
武蔵野美術大学ではデザインを学び、卒業後はイラストレーターとして活動。アルバイト先で出会った阿久悠とは、生涯を通じて親しく交わっています。
漫画家としてのデビューは1967年。アクションが主流だった劇画の世界で、男性の添え物的な役回りを強いられていた女性を抒情豊かに描き、注目を集めていきました。
本展でも、主役は女性です。上村さんの作品から美女50人が選ばれ、印象的なセリフとあわせて紹介されています。
「50人の美女」が並ぶ会場上村さんの代表作といえば、もちろん「同棲時代」。一般の人には縁遠かった「同棲」を、若者の新しいライフスタイルとして示したこの作品は、時代の風を受けて圧倒的な共感を呼びました。
当初は10回程度の予定で始まった作品ですが、人気になったため80回の長期連載に。TVドラマ(演:梶芽衣子、沢田研二)、映画(演:由美かおる、仲雅美)にもなり、大信田礼子が歌った主題歌も大ヒットしています。
「劇画史に一時代を画した」と評される「同棲時代」その画風から「昭和の絵師」「劇画界の竹久夢二」ともいわれた上村さん。上村さん自身も、好きな画家として葛飾北斎、小村雪岱とともに竹久夢二の名前を挙げています。
上村さんは「夢二 ゆめのまたゆめ」「菊坂ホテル」と、夢二を題材にした作品も2点描いています。実は「菊坂ホテル」第一話の扉絵に描かれた夢二の作品が、
弥生美術館に隣接する
竹久夢二美術館でちょうど展示中です。
夢二を題材にした作品も会場では漫画の原画だけでなく、ポスターやレコードジャケット、雑誌の表紙原画なども紹介されています。
1985年の夏頃からは、大判のイラストも制作。将来の個展に備えた意欲的な下絵が展示されていますが、同年秋に入院した時には、すでに下咽頭癌がステージ4まで進行していました。翌年1月に死去、まだ45歳の若さでした。
映画「キル・ビル」の影響もあり(同作は上村さんの作品「修羅雪姫」映画版へのオマージュが随所に見られます)、近年は海外での評価も高まっている上村さん。特にフランスでは大きな賞を受賞するなど、絶大な指示を集めています。海外での出版物を見ると、横文字と上村さんの絵との意外な相性の良さにも驚きます。
海外での評価も高まっています酒を愛し、フラメンコギターもセミプロ級と、誰からも好かれた上村さん。最盛期には月産400枚という驚異的なペースで傑作を量産しながらも、決して締切を破らない優等生でもありました。
会場に並ぶ作品には、いわゆる成人漫画に含まれるものもありますが、巧みな心理描写は同性の心にも響くのでしょうか。来館者は女性の姿も多いという事です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年1月5日 ]■上村一夫×美女解体新書 に関するツイート