山本基氏は1966年、広島県尾道市生まれ。塩を使ったインスタレーション作品で知られ、これまでにアメリカやヨーロッパなど約10カ国で作品を発表してきました。作品に塩を使うようになったのは、妹さんが脳腫瘍のため24歳の若さで亡くなったことがきっかけです。葬儀をテーマに作品を作るなかで、清めの塩を素材として使いはじめました。以来、15年間に渡って塩の作品を作っています。まずはその制作風景をご覧ください。
2階で制作中の山本基氏。黙々と作り続けます。今回の展示会場は1階・中2階・2階の3室。順に上に上っていくような会場の特徴を活かし、上に鑑賞者を誘導するような構成です。
1階は枯れ山水風の水門模様「現世の杜(うつしよのもり)」。庭石のように見える岩塩を、「登竜門」の故事にでてくる鯉に見立てています。鯉が目指すべき滝を模した作品が、中2階の「摩天の杜」。天井を突き抜ける白い塔は、塩を焼き固めて積み上げられたものです。ともに約3.5トンの塩を使っています。
1階から中2階を望む木の枝や血管、進化の過程を表す図のような作品が、2階の公開制作作品「常世の杜(とこよのもり)」です。目には見えなくとも、確かに繋がっている命を表現した作品。動画でご覧いただいて分かるように、精製塩を油差しのボトルに入れ、一人で黙々と制作していきます。制作時間は1日約12時間、今回は12日かけて作り上げます。
上からの俯瞰。これで50%ほどの完成度です。山本氏は、これまでも「細く複雑な迷路」や「途切れて登ることができない階段」などを塩で制作してきましたが、共通するテーマは「届きそうで、届かない」という思い。長い時間をかけて緻密な作業を続けることで、作品に濃密な情感を注いでいるように感じました。
ちなみに、公開制作作品で使われた塩は「海に還るプロジェクト」として、展覧会の最終日(2012年3月11日)に来館者によって撤去され、海に還してもらいます。生命にとってかかせない塩。使われた塩は、あるいは我々の体の中にあったものかもしれません。
彫刻の森美術館彫刻の森美術館は日本初の野外美術館として、1969年に開館。箱根の山々を望む広大な敷地に、ヘンリー・ムーアをはじめとする彫刻家の名作約120点が常設展示されています。世界有数のコレクション300点余りを順次公開しているピカソ館、子どもたちが中に入って遊べる造形作品「プレイスカルプチャー」などを備え、幅広い年代に親しまれています。
ちょっと嬉しい施設は、美術館の敷地内から湧きでる温泉を利用した足湯「ほっとふっと」。広い敷地を歩いた後にはうってつけ、しかも無料です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年7月22日 ]