5月30日より国立新美術館で開催される「ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか」は、ルーヴル美術館が所蔵する古代から19世紀までのヨーロッパ各地の肖像芸術の作品を集めた展覧会です。
この展覧会は、肖像というテーマを目的や想いに着目しながら、時代の流れもわかりやすく、とても興味深いものでした。
古くから肖像には、自分自身の死、大切な人の死により滅びていく肉体を、彫像や絵画の中に遺し、いつまでも記憶の中にとどめておきたいという切実な想いがありました。
ジャック=ルイ=ダヴィッドと工房 《マラーの死》 1794年頃
こちらの作品は、フランスの革命指導者マラーが、ジロンド派支持者のシャルロット・コルデーに暗殺された当時を再現したものです。
犯行に使われた凶器や台の銘文、手紙などの小道具がマラーの思想や政治的な意味合いを持たせています。
ダヴィッドはこの衝撃的な事件に物語性を持たせて、人々の記憶に留めようとしました。
また、肖像を制作することによって、その姿を広く知らしめ、権力や富の証としてきたという歴史もあります。
フランチェスコ・マリア・スキアッフィーノ 《リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ(1696-1788)》 1748年
リシュリュー公爵は、当時宮廷や戦場の中でも大きな影響力のあった人物だそうです。
この像は本人からの発注だったと考えられています。
150cm弱の大きな像ですが、巻き髪、レースの透かし模様などがとても細かく彫られていて、近くで見るとその繊細さに驚きます。
左から アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルシー=トリオンの工房 《戴冠式の正装のナポレオン1世の肖像》 1812年以降 / アントワーヌ=ジャン・グロ 《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》 1796年
クロード・ラメ 《戴冠式の正装のナポレオン1世》 1813年
今回の展示会場の中には、ナポレオンの肖像だけを集めたブースがあります。
皆さんもいろいろなところで目にするナポレオン像かと思います。
ナポレオン自身が己の功績や正当性を広めるために、これらの肖像を制作させたとも言われています。
セーブル王立磁器製作所 《国王の嗅ぎ煙草入れの小箱》 1819-1820年とマリー=ヴィクトワール・ジャコト 《ミニアチュール48点》 1818-1836年
こちらは、ルイ18世の嗅ぎ煙草入れの小箱とミニアチュールです。
48のミニアチュールには、フランスの歴代の王族の肖像や文豪らが描かれていて、嗅ぎ煙草入れの蓋としてそれぞれを気分に合わせて付け替えることができたのだそうです。
左から エリザベート・ルイーズ・ヴェジェ・ル・ブラン 《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカブロンスキー伯爵夫人(1761-1829)の肖像》 1796年 / オーギュスタン・バジュー 《エリザベート・ルイーズ・ヴェジェ・ル・ブラン(1755-1864)》 1783年
ル・ブランは、女性らしい感性を持って、おしゃれで美しく女性を描き、マリー=アントワネットのお気に入りの肖像画家として大成した人物です。
左は彼女の描いた肖像で、右は彼女がモデルになったテラコッタです。
画家として歩み始め自信に満ち、ファッションリーダーでもあったという在りし日の姿が偲ばれます。
肖像が作られる理由は、個人的な理由であったり、政治的な理由であったりしました。
しかし、長い年月が過ぎ、モデルがこの世を去ったのちも、生きた証が今ここに残されているというのは不思議な気持ちになります。
なお、歴史的な人々が出てきますので、その背景を詳しく知りたい方は音声ガイド(オフィシャルサポーター高橋一生さん)を借りられることをお勧めします。
また、ミュージアムショップではフランスらしいエスプリの効いた雑貨の数々をみつけるのも楽しそうです。
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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