古典、現代ペアの8つの組み合わせで、日本美術の豊かさを紹介する展覧会。順路に沿ってご紹介しましょう。
「仙厓×管木志雄」。仙厓義梵(1750-1837) は、美濃出身の画僧。その禅画は生前から人気でした。菅木志雄(1944-) は「もの派」を代表する存在のひとりです。インド哲学の〈空〉の思想に共鳴し、ものと人との在りようを問い直してきました。仙厓の《円相図》に応答して《支空》を再制作しました。
「仙厓×管木志雄」
「花鳥画×川内倫子」。花鳥画は、東洋の伝統的な画題のひとつ。江戸時代には、沈南蘋の影響を受けた絵師や、伊藤若冲らが活躍しました。川内倫子(1972- )は、世界を舞台に活躍している写真家です。〈AILA〉と〈Halo〉シリーズに見る作風からは、自然への興味と深い情感が感じられます。
「花鳥画×川内倫子」
「円空×棚田康司」。円空(1632-1695) も、美濃出身の僧。全国を巡り、約12万体といわれる膨大な数の仏像を彫りました。棚田康司(1968-) は現代を代表する木彫作家の一人です。円空と同様に日本古来の「一木造」で像を制作。展覧会の設営は、円空と対話しているようで楽しかった、と語っていました。
「円空×棚田康司」
「刀剣×鴻池朋子」。海外にもファンが多い日本刀。もとは武器ですが、権力の証、鑑賞の対象へと変化しました。鴻池朋子(1960-) は、アニメーション、絵画、彫刻、手芸など様々な手法を用いる美術家。動物の皮を縫い合わせた巨大な《皮緞帳》は、広い空間を活かしています。
「刀剣×鴻池朋子」
「仏像×田根剛」。国際的に注目を集める建築家の田根剛(1979-)が、天台宗の古刹・西明寺(滋賀県甲良町)に伝わる二体の仏像を展示する空間をつくりました。光で闇を消す日光菩薩と、慈しみの心で煩悩を滅する月光菩薩。田根は祈りにふさわしい場を、光で表現しています。
「仏像×田根剛」
「北斎×しりあがり寿」。ご存知、葛飾北斎(1760 -1849) は浮世絵界のスーパースター。印象派など西欧の画家にも大きな影響を与えました。漫画家のしりあがり寿(1958-) は、現代美術家としても活躍中。北斎へのオマージュとして〈ちょっと可笑しなほぼ三十六景〉を制作。映像作品も出展しています。
「北斎×しりあがり寿」
「乾山×皆川明」。尾形乾山(1663-1743) は絵師・尾形光琳の実弟。琳派の意匠を用い、数々の華やかな陶器を生み出しました。ブランド「ミナ ペルホネン」を率いる皆川明(1967-)。温かいデザインは、陶器を芸術に高めた乾山焼の世界を彷彿とさせます。
「乾山×皆川明」
最後が「蕭白×横尾忠則」。曾我蕭白(1730-81)は「奇想の系譜」の絵師。醜悪に思えるモチーフを、大胆な筆さばきで描きました。横尾忠則(1936-) は60年代からグラフィックデザイナーとして活躍し、1981年に「画家宣言」。先達の作品から引用や借用し、新たな表現に昇華させたことでも、両者は共通します。
「蕭白×横尾忠則」
展覧会の古典側を総監修した小林忠氏(國華主幹)が「図録を見れば概要がイメージできる展覧会が多い中、本展は会場で見なければ良さが分からない」と力説していたのも納得です。個性のぶつかり合いもあり、調和もありと、賑やかな会場をお楽しみ下さい。
(左から)皆川明、田根剛、棚田康司、しりあがり寿、川内倫子の各氏
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年3月24日 ]
※当初予定会期:2020年3月11日(水)~6月1日(月)