仏の姿を分類すると「如来」「菩薩」「明王」。釈迦が出家した後が如来で、出家前が菩薩。教えに従わないものを屈服させるのが明王で、その中には古代インドの神だった「天」も含まれます。
ほとけの表情に焦点をあてた本展では、4つの仏のグループをキーワードを用いて説明。如来は「おごそか」、菩薩は「やさしい」とされています。
6年に及ぶ苦行を経て瞑想に到達し、遂に悟りを開いたお釈迦さま。釈迦如来は、仏教の教えそのものであり、特別な存在といえます。
装飾品は無く、頭頂は盛り上がり、額には白毫。表情は静かで厳かです。やや伏し目がちのお顔は、人々の心を見透かすようです。
質素な出でたちの如来に比べ、装飾品が多いのが菩薩です。ほとけの教えを人々に伝える菩薩は、観音菩薩、勢至菩薩、地蔵菩薩、普賢菩薩と、種類が多いのも特徴といえます。
「きびしい」表情のほとけさまが、天。須弥山の中腹で四方を守る持国天(東)、増長天(南)、広目天(西)、多聞天(北)は、甲冑に身を固め、厳しい表情で目を光らせています。
「おそろしい」のが明王。密教の頂点である大日如来の命を受け、どんな力にも打ち勝つ強いほとけさまです。
代表的な明王である不動明王は、大日如来の化身です。降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉(または烏枢沙摩)をあわせた五大明王として、彫刻や絵画で数多く表現されてきました。
修繕されて本展で初公開となる《愛染明王坐像》も、髪を逆立たせた怒りの形相。ただ、実はこの姿は、人間がもつ煩悩、中でも愛欲とその執着のすさまじさを示しています。
それらの煩悩を否定せず、そのパワーを悟りへ向かう方向に転換させ、さまざまなご利益をもたらすという愛染明王。やや都合が良い解釈のためか、平安時代後期以降、朝廷や貴族に篤く信仰されました。
絵画コレクションの印象が強い根津美術館ですが、本展では彫刻が数多く展示されています。さらに前述の《愛染明王坐像》をはじめ3体は展示ケースに入れず、露出での展示。細部までじっくりとお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年7月24日 ]