柳宗悦が晩年提唱した「仏教美学」の展覧会が開催されています。「仏教美術の美学」と誤解されがちですが「仏教の教えをもとにした美学」という意味です。そのためあえてメインビジュアルにキリスト像を掲げ、考えるきっかけを提示しています。
仏教美学 ポスター
また柳は民藝運動で知られますが、もともとは宗教哲学者でキリスト教研究をしていました。のちに民藝や仏教美学へと思索を深めますが、軸足は常に宗教哲学にあります。
直観で見る
この企画展はチャレンジングな試みがあります。民藝館の展示はこれまでも解説がありませんでした。さらに今回は「作品名、製作年、国」など基本情報もあえて表示していません。先入観なく柳が提唱する「直観」で見ることを否応なく体感させられます。
大展示室 東側
「美醜以前の美」から「仏教美学」へ至る世界観を、追体験してみようという趣向です。出品目録も気づきにくいところに置き、解説もしないのは「不親切」という声があることも想定の上、このスタイルで実施しています。
美は展示環境からも
暗中模索の中、鑑賞を進めると、展示物の美しさだけでなく、それをとりまく空間が働きかける力を感じられました。天窓から差し込む光、窓越しに見える緑、その緑が移り込むガラスケース。それらが相まって相乗的な美を見せてくれます。
大展示室 展示風景
空間に馴染んだ展示ケースは温もりを感じさせる家具のようで、暮らしの息遣いの中に溶け込んでいます。障子を通した柔らかい光を、椅子にもたれ背後から感じながら館内を眺める至福の時間は民藝館ならではです。
2階回廊 のぞきケース
壺には季節の花がさりげなく生けられ、室内から外に空間が広がります。壺が内と外をボーダレスに繋ぎ融合しています。工芸品をとりまく空間や自然との共存、そこに隠れていた美が浮かびあがり共鳴して豊かな音楽が響いているようです。
新館回廊南側
「仏教美学」展示にみる美の探索
展示室には黒地に朱の手書き文字でテーマが示されています。工芸品の「手の温もり」と文字の手触りが重なります。
特集展示1 仏教美学 関連資料
展示物は時代や国、用途など意図的にバラバラに並べています。数が並ぶとまとまりに欠け心にざわつきを感じますが一切それがありません。展示ケース側面の障子、板張りの展示台が美の舞台を下支えしているようです。調和した展示は心を穏やかに包み込みます。
2階回廊 壁付ケース
展示ケースは床の間のように空間とも馴染み、作り付け家具のようです。
特別展示2 阿弥陀の造形(本館2階第3室)
ケース中央に棚を設え、掌サイズの焼物を並べ、両サイドには大型の焼物でリズムを刻みます。壁面の3幅の軸はメロディーを奏でているようです。
民藝運動の作家たち [1階第1室] 濱田庄司
「仏教美学」の契機となった『美の法門』をはじめとする四部作や、柳が造本した著作が並びます。
仏教美学四部作『美の法門』『無有好醜の願』『美の浄土』『法と美』
論考を映像で
柳が思索を深める過程の映像が初上映中です。最初から映像に頼りたくなりますが、まずは自分で「美」をとらえ「直観」でみる。そのあと柳が見届けた「美醜以前の美」「仏教美学」を映像で追体験しながら深めるという新たな鑑賞スタイルを試みてはいかがでしょうか?
1955年10月「東洋思想講座 第五回」映像’(音源を基に制作)
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2025年1月16日 ]