無免許医でありながら天才的な技術を持ち、不可能と言われる手術もこなしてしまう外科医の活躍を描いた人気マンガ『ブラック・ジャック』。1973年の連載開始からすでに半世紀が経過した現在でも、多くのファンを魅了し続けています。
500点以上の原稿や200以上のエピソードを紹介しながら、その魅力を余すところなく伝える大規模な展覧会が横浜に巡回してきました。
そごう美術館「手塚治虫 ブラック・ジャック展」会場入口
この展覧会は、2023年に東京シティビューで開催され、その後全国で展開されている巡回展です。横浜は6会場目で、これまでに約15万人を動員しています。
会場は4章構成となっており、最初の第1室では、ピノコやドクター・キリコなど、作品に登場する個性豊かなキャラクターが紹介されています。
第1室「B・J(ブラック・ジャック)とキャストたち」
第2室では、ブラック・ジャック誕生までの背景が描かれています。単行本『新寶島』の大ヒット以降、日本の漫画界の頂点に君臨していた手塚治虫ですが、劇画の台頭や時代の変化もあって人気は低迷。1973年には、手塚が創設した株式会社虫プロダクションが倒産し、「手塚は古い」「手塚は終わった」と過去の人物とみなされる状況に追い込まれていました。
そんな逆境の中で、手塚が世に送り出したのが『ブラック・ジャック』です。医療をテーマにした漫画を少年誌に掲載するのは前代未聞の試み。当初は短期間の読み切り連載の予定でしたが、人気が出たため5年にわたって読み切り形式で連載が続けられました。
第2室「B・J 誕生秘話」
第3室では、『ブラック・ジャック』の物語をキーワードごとに整理して展示。高額報酬の謎や動物の命を扱ったストーリーなど、多岐にわたるテーマがわかりやすく紹介されています。
開幕前日に登壇した、手塚治虫の長男でヴィジュアリストの手塚眞氏は、「手塚治虫が生涯において気にしていたあらゆるテーマが、『ブラック・ジャック』という作品の中に込められている」と語りました。
第3室「B・J 曼荼羅」
最後の第4室では、『ブラック・ジャック』以前に手塚治虫が取り組んだ医療マンガにも触れています。1970年に『ビッグコミック』で連載された『きりひと讃歌』は、日本初の医療マンガともいえる作品で、一大ドラマとして展開されました。
『きりひと讃歌』が長編ドラマだったのに対し、『ブラック・ジャック』は一話完結型の構成が特徴。そのため、各話に多様なテーマが仕込まれています。
第4室「B・J 蘇生」
この展覧会では、メインビジュアルに記された名セリフ(コピー)が各会場ごとに異なります。横浜展のコピーは「それを聞きたかった」。これは第89話「おばあちゃん」でのラストセリフです。このエピソードでは、金に細かくがめつい老女に息子夫婦がうんざりしている中、ブラック・ジャックが彼女の金への執着の理由を知るという心温まるストーリーが描かれています。会場では「おばあちゃん」の原稿が全ページ展示されています。
第4室「B・J 蘇生」 『ブラック・ジャック』第89話「おばあちゃん」©Tezuka Productions
また、ブラック・ジャックにとって横浜は特別な場所でもあります。船医の如月恵と5年ぶりに再会したのが横浜の「港の見える丘公園」でした。このエピソードにちなんで、横浜会場では特別な展示が施されています。
さらに、みなとみらい線では本展とのコラボで記念台紙付きの一日乗車券も販売されています(枚数限定)。展覧会と横浜の街をつなぐ特別な体験を楽しむことができます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年1月15日 ]
©Tezuka Productions