海からさまざまな恵みを得ている私たち人類。他の霊長類が海と積極的に関わることがないなかで、人類だけは食糧の調達をはじめ、さまざまな目的のために海洋に進出してきました。
インターメディアテク「海の人類史」は、人類の海に対する100万年にわたる挑戦の歴史をテーマにした展覧会です。
インターメディアテク「海の人類史」会場入口
インターメディアテク GRAY CUBEで開催されている本展。人類による海の開拓史を、太古の挑戦と、現代のチャレンジの2部構成で紹介していきます。
最初にご紹介するのは、インドネシア東部のフローレス島から発見された原人の骨です。この島に渡るのは20〜30kmの海峡を越える必要があるため、この地に最初に到達したのは、舟を発明したホモ・サピエンス、というのが従来の説でした。
ところが2003年に、島の洞窟から原人の骨を発見。ホモ・サピエンスよりはるかに前の原人が、海を越えて島に到達していたのです。見つかるはずがなかったこの大発見で、それまでの人類進化研究の常識は大きく変わりました。
(手前)フローレス原人 / (奥)沖縄の旧石器人 ともに国立科学博物館
30万~10万年前頃にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、過去5万年間に世界中へ拡散。アジア東部沿岸において、人類史上最初の本格的な海洋進出がはじまりました。遅くとも47,000年前までにオーストラリア大陸へ到達し、その約1万年後には日本列島へも渡海していきます。
旧石器人は、原始的な道具で大型の動物を追い回していたようなイメージがありますが、沖縄のサキタリ洞遺跡からは、モクズガニの爪が多く出土しています。カニは大きく、もっとも美味しい産卵期のもの。一部は焼けており、旬のカニを焼いて食べていたようです。
モクズガニ 沖縄県立博物館・美術館
時代は下って縄文時代。意外なことに、縄文時代の人々は巨大なマグロも採っていました。
約7,000~5,000年前の波怒棄館遺跡(宮城県気仙沼市)からは、体長2.5mのクロマグロの骨も発見。南方の海で採取した貝製品が本土でも流通しているなど、海を舞台に活発に活動していたことがわかります。
波怒棄館遺跡(宮城県気仙沼市)から出土したマグロ骨の一部 気仙沼市教育委員会
縄文人と海との関係で興味深いのが、骨の太さです。列島各地の縄文人の上腕骨を調査したところ、男女とも、内陸より海辺に暮らす集団のほうが、骨が太い傾向があることがわかりました。
よく運動すると骨は太くなるので、海辺の縄文人の骨が太いのは、漁労など海洋活動が影響していると考えられます。
なかでも愛知県保美貝塚の男性の腕の骨の太さは驚異的。日本列島史上最も太い上腕骨も、ここから見つかっています。
(左)列島史上最も太い上腕骨 保美貝塚(愛知県田原市)縄文時代後期(約3000年前)東京大学総合研究博物館
第2部「現代のチャレンジ」では、現代の海運・海事業について紹介されています。
20世紀に船舶の機械化と大型化が進むと、帆船はレジャー以外の役割を終えたかに見えましたが、近年になって再び帆は注目を集めるようになってきました。
ひとつは、飛行機の翼のようなの硬帆を備えて、風を補助推進力として使う輸送船。さらに発想を進め、受けた風力で水素をつくるプロジェクトもあり、洋上風力発電と水素生産設備が融合した、動くハイブリッドプラントを目指しています。
ウインドハンタープロジェクトが想定する未来の船 株式会社商船三井
太古の昔から海に挑んでいったわたしたち。これまでのイメージを覆すような展示が多く、充実感あふれる展覧会です。
東京近郊の方にとっては「今さら」かも知れませんが、あらためてアナウンスしておきましょう。常設展示もあわせて無料というのも、とても嬉しいポイントです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年7月4日 ]