世界中で愛されているポケモンが工芸に。2023年3月に国立工芸館で開催されて大きな反響を呼び、国内外を巡回している「ポケモン×工芸展」が、MOA美術館で始まりました。
展示されているのは、人間国宝から注目の若手まで20名による約70点。各々のアーティストの、ひらめきと悶えと愉しみの中から生まれた作品が並びます。
MOA美術館「ポケモン×工芸展」会場入口
では、いくつかの作品をご紹介しましょう。
まずは陶芸、葉山有樹の作品から。葉山はこれまでの展覧会でも、自らの「森羅万象」シリーズを「ポケモン×工芸展」の作品として落とし込んだ《森羅万象ポケモン壷》などを展示していましたが、今回は、キューブ型の新作なども登場しました。
葉山有樹《キューブ型「スカーレット古代と現代の共存」》2024年 / 葉山有樹《キューブ型「バイオレット未来と現代の共存」》2024年
会場で特に目を引く作品のひとつが、吉田泰一郎の作品。MOA美術館・展示室1の露出の床の間で展示されています。
金属工芸の吉田泰一郎の作品は、イーブイとその進化形であるシャワーズ、サンダース、ブースターの3匹。イーブイは純銅で、進化形はそれぞれ青銅、金銀メッキ、緋銅で、今にも動き出しそうな迫力ある造形が魅力的です。
(手前)吉田泰一郎《ブースター》2022年
田口義明は漆芸家。人間国宝だった父・田口善国から蒔絵を、増村益城から髹漆(きゅうしつ:漆塗を主とする漆芸技法)を学びました。
棗にはファイヤーを、蓋物にはタッツーとシードラが表現。繊細な描写をぜひじっくりご覧ください。
田口義明《乾漆蒔絵螺鈿蓋物「遊」》2022年
陶芸の桑田卓郎が選んだのは、時代のアイコンといえるピカチュウ。ピカチュウの象徴性に匹敵する、現代のスタンダードとしての器物を徹底的に精査してつくられました。
ピカチュウの表現には最新技術による転写シートを用いている一方で、作品全体には窯業生産地である美濃の知識と経験が結集しています。
桑田卓郎《カップ(ピカチュウ)》2023年
螺鈿は夜光貝、アワビ、蝶貝などの真珠層を研ぎ出して板状に加工し、漆で接着する技法です。
池田晃将の作品は、幾何学形態や数字などで器物全体を覆うのが特徴的。角度によって、ヒトカゲなどのシルエットが浮かび上がります。
(手前)池田晃将《電線光環中次》2022年
テキスタイルデザイン・スタジオ「NUNO」を率いる須藤玲子は、ピカチュウの魅力をテキスタイルで表現。アニメ「ポケットモンスター」の「ピカチュウのもり」から着想し、約900本の“ピカチュウレース”で構成する作品を制作しました。
1本だけ色柄違いのレースがありますので、探してみてください。
須藤玲子《ピカチュウの森》2022年
陶芸の桝本佳子は、企画の趣旨を聞いて即座に「ほのおタイプ」で行くことを決意。「炎は焼きものと切り離せない」という最もな理由からで、鎌倉時代から続く信楽焼とポケモンのコラボが実現しました。
桝本にとって、信楽焼での本格的な制作は本作が初めてでしたが、迫力あふれる作品が完成しました。
(左から)桝本佳子《リザードン/信楽壷》2022年 / 桝本佳子《ヒトカゲ/信楽壷》2022年
MOA美術館では関連企画としてスタンプラリーも実施中です。円形ホール、漆扉、能楽堂、光琳屋敷、一白庵と、5ケ所を回ってポケモンのスタンプを集めてください。
関連企画のスタンプラリー
ポケモンをテーマに日本が誇る工芸の技術を見せていくという、とてもユニークなコンセプトの展覧会。そもそもの発端は株式会社ポケモンから国立工芸館側にコラボレーションの打診があり、徐々に具体化していったという経緯があります。
話題の展覧会が東京近郊に巡回という事もあり、初日は多くの来館者で賑わっていた会場。グッズコーナーもかなりの盛況ぶりでした。展示作品は全て撮影も自由です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年7月6日 ]