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レポート
特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」
ふくやま美術館 | 広島県
名刀匠・正宗に連なる10名の刀工たち。「正宗十哲」を特集する初の展覧会
相州鍛冶の先駆者から正宗による「相州伝」の確立。その影響は全国に拡散
国宝刀剣が全国2位のふくやま美術館にふさわしい企画展。東京展は大反響


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「名刀正宗」という呼称は、刀に詳しくない方も一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? 鎌倉時代末期に相模国鎌倉で活動し、それまでとは一線を画す作風「相州伝」を完成させた名刀匠・正宗は、一般にも高い知名度を誇ります。

「正宗十哲」は、正宗から強く影響を受けた10人の刀工たちのこと。これまでもしばしば開催されている正宗の展覧会ではなく、正宗十哲をテーマにした初の特別展が、優れた刀剣コレクションで知られるふくやま美術館で始まりました。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場入口(右奥は福山城博物館)
ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場入口(右奥は福山城博物館)


相模国における刀剣の歴史は、鎌倉時代中期頃から始まります。当時の刀剣の二大産地だった、山城国と備前国から、鎌倉幕府が刀工を呼び寄せたことが端緒になりました。

相州伝の祖とされるのが、国綱の子ともいわれる新藤五国光です。その国光の門下に育ったのが行光や正宗で、やがて正宗による「相州伝」に繋がっていきます。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 国宝《太刀 銘 国宗》黒蝋色鞘打刀拵 鎌倉時代中期(13世紀)ふくやま美術館(小松安弘コレクション)
国宝《太刀 銘 国宗》黒蝋色鞘打刀拵 鎌倉時代中期(13世紀)ふくやま美術館(小松安弘コレクション)


正宗は師・国光の作風を受け継ぎつつ、さらに躍動的な様式、すなわち「相州伝」へと発展させました。

芸術的な正宗の刀は、多くの人々を魅了しました。8代将軍徳川吉宗の命で編纂された『享保名物帳』に掲載されている名物刀剣168口のうち、実に41口が正宗の刀です。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要文化財《短刀 無銘 正宗(名物 伏見正宗)》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵
重要文化財《短刀 無銘 正宗(名物 伏見正宗)》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵


南北に朝廷が立つ動乱の時代に入り、人や武器が行き交うようになると、相州伝の追随者が各地に出現。彼らが、後に「正宗十哲」と呼ばれるようになります。いよいよ展覧会のメインといえる10人の作品です。

来国次は山城国の来派の刀工ですが、それまでの来派とは大きく異なる作風から「鎌倉来」とも称されます。

長谷部国重も山城国の刀工。「長谷部」の姓は新藤五国光も名乗ったとされることからも、相州伝とのつながりがうかがえます。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 特別重要刀剣《短刀 銘 来国次》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵
特別重要刀剣《短刀 銘 来国次》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵

ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要刀剣《脇指 銘 長谷部国重》南北朝時代(14世紀)個人蔵
重要刀剣《脇指 銘 長谷部国重》南北朝時代(14世紀)個人蔵


美濃国の兼氏と金重も十哲にあげられる刀工、ともに美濃鍛冶の源流になった刀工と伝えられています。

兼氏は大和出身。美濃に来住して作刀したことから、美濃国の地名である「志津」にちなみ「志津三郎兼氏」と呼ばれます。正宗十哲の中で正宗に伯仲する技量と評価されています。

金重は本国は越前国敦賀で、後に美濃国に移住しました。現存作は少なく、数口のみです。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 《短刀 銘 兼氏》星梅鉢紋金切金蒔絵鞘合口短刀拵 南北朝時代(14世紀)個人蔵
《短刀 銘 兼氏》星梅鉢紋金切金蒔絵鞘合口短刀拵 南北朝時代(14世紀)個人蔵

ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要刀剣《太刀 銘 金重》南北朝時代(14世紀)個人蔵
重要刀剣《太刀 銘 金重》南北朝時代(14世紀)個人蔵


越中国の江義弘も古来から十哲の一人に数えられてきた刀工で、いかにも相州伝らしい作風です。

一方で、同じ越中国の則重は新藤五国光の門下で、正宗の兄弟子。十哲の全員が正宗に師事していたわけではないことも分かります。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 江(郷)義弘による作
江(郷)義弘による作

ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 特別重要刀剣《刀 無銘 伝 則重(号 太閤則重)》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵
特別重要刀剣《刀 無銘 伝 則重(号 太閤則重)》鎌倉時代末期(14世紀)個人蔵


石州直綱は石見国の刀工ですが、同名の刀工がいるので注意が必要です。正宗門下とされる初代直綱の作風は、相州伝からの由来が顕著です。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 石州直綱の作など
石州直綱の作など


備前国では兼光と長義が正宗十哲。ともに「相伝備前」の名で、新たな作風を創りました。

長船兼光は備前長船派の嫡流。約45年という長い活躍の中で、後期の作の刃文には、相州伝の影響がみられます。

長船長義も「相伝備前」の刀工で、兼光以上に相州伝が強調されていますが、正宗との師弟関係があったとすれば、年代的に時代が後年すぎるという矛盾があります。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要美術品《脇指 銘 備前国長船兼光/貞和三年十二月日》南北朝時代(貞和3年(1347))個人蔵
重要美術品《脇指 銘 備前国長船兼光/貞和三年十二月日》南北朝時代(貞和3年(1347))個人蔵

ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要美術品《刀 無銘 伝 長義》南北朝時代中期(14世紀)個人蔵
重要美術品《刀 無銘 伝 長義》南北朝時代中期(14世紀)個人蔵


筑前国の左文字は「大左」と通称される刀工です。伝統的な九州物から大きく脱却し、洗練された作には相州伝からの学びの跡が見て取れます。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 国宝《短刀 銘 左/筑州住(号じゅらく(太閤左文字))》葵唐草文金襴包鞘合口短刀拵 南北朝時代前期(14世紀)ふくやま美術館蔵(小松安弘コレクション)
国宝《短刀 銘 左/筑州住(号じゅらく(太閤左文字))》葵唐草文金襴包鞘合口短刀拵 南北朝時代前期(14世紀)ふくやま美術館蔵(小松安弘コレクション)


貞宗は、正宗の実子あるいは養子といわれる刀工で、正宗が完成させた相州伝を受け継ぎました。現存作品はすべて無銘ですが、師の作風を忠実に受け継ぎつつも、正宗とは明らかに異なっていることから、逆説的にその存在が認められてきました。

十哲には数えられていませんが、「宗」の字を継いでいる貞宗は、実質的な継承者であったといえます。


ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場より 重要文化財《脇指 朱銘 貞宗/本阿(花押)(名物 朱判貞宗)》変塗鞘合口短刀拵 南北朝時代(14世紀)ふくやま美術館蔵(小松安弘コレクション)
重要文化財《脇指 朱銘 貞宗/本阿(花押)(名物 朱判貞宗)》変塗鞘合口短刀拵 南北朝時代(14世紀)ふくやま美術館蔵(小松安弘コレクション)


相州鍛冶の先人たち、名匠正宗、そして正宗を受け継いだ刀工たちと、刀の歴史を変えた相州伝を総覧できる企画展。ふくやま美術に先だって刀剣博物館で開催された展覧会も、会期途中で図録が完売するほどの人気を呼んでいました。

国宝刀剣のコレクションは東京国立博物館が最多ですが、堂々の第2位がふくやま美術館(7件)。まさにこの地で開催するに相応しい展覧会です。会期中には刀剣鑑賞ビギナー向けと、慣れている方、それぞれに向けたギャラリートークも開催されます。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年2月17日 ]

ふくやま美術館 特別展「正宗十哲 ― 名刀匠正宗とその弟子たち ―」会場
特別重要刀剣《太刀 銘 国綱》鎌倉時代前期 13世紀 個人蔵
重要刀剣《脇指 銘 長谷部国重》南北朝時代(14世紀)刀剣博物館蔵
美術館の前にあるモニュメント 高橋秀《愛のアーチ》1988年
会場
ふくやま美術館
会期
2024年2月18日(日)〜3月27日(水)
会期終了
開館時間
9時30分~17時00分
休館日
月曜日休館
住所
〒720-0067 広島県福山市西町2-4-3
電話 084-932-2345
公式サイト https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/site/fukuyama-museum/319250.html
料金
一般1,000円(800円) 高校生以下無料
*( )内は有料20名以上の団体料金
展覧会詳細 「特別展「正宗十哲―名刀匠正宗とその弟子たち―」」 詳細情報
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