ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエとともに「近代建築の三大巨匠」と称される、アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト(1867–1959)。アメリカや日本国内において数多くの建築を手がけたライトの全貌に迫る展覧会が、パナソニック汐留美術館で開催中です。
「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」会場入口
展覧会は「帝国ホテル二代目本館(現在は博物館明治村に一部移築保存)」を基軸に、7つのセクションで構成されています。
セクション1では、建築家として歩み始めたライトのシカゴでの建築を紹介します。ウィスコンシン大学の土木科で1年学んだライトは、建築家になることを目指し1887年にシカゴへ移住。1890年代のシカゴは人口が100万人にまで増加し、高層建築が次々に建ち、商工業都市としてアメリカと西ヨーロッパをつなぐ結節点となっていました。
植物をはじめ自然をモチーフに基本形態を抽象化した表現を獲得し、サイバンの事務所住宅の設計などを手掛けていたライトは、1893年に独立します。
「セクション1:モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観」会場風景
独立と同じ年に開催されたシカゴ万博での日本のパヴィリオン「鳳凰殿」で日本文化に触れたライトは、1905年に日本を訪問。浮世絵から大きな影響を受け、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵や版画を蒐集します。その成果から、その後シカゴ美術館で自ら会場設計を行った世界初の歌川広重の回顧展を実現しました。
「セクション1:モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観」会場風景
自然の地形に呼応しながら人の生活を豊かにする建築をテーマとしていたライト。アメリカ中西部を象徴する平原や原生植物や、日本の変化に富んだ地形、山や滝のある風景から着想を得て、日本での作品「山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」「小田原ホテル計画案」を経た後、代表作「落水荘」が結実します。
『セクション2:「輝ける眉」からの眺望』会場風景
ライトは、家庭生活や教育のあり方の変革に取り組んだ女性運動家たちともネットワークを形成します。オークパークの初期の自邸とスタジオには、設計室や幼児教育のためのプレイルームを設備し、「クーンリー・プレイハウス幼稚園」を実現。また、帝国ホテル設計のために滞在した日本では、羽仁もと子の依頼で「自由学園」を手がけています。
「セクション3:進歩主義教育の環境をつくる」会場風景
支配人の林愛作から依頼を受けた帝国ホテルは、ライトが日本に延べ3年以上滞在しながら設計。セクション4では、図面や家具、帝国ホテルの一部を構成していたテラコッタや大谷石のブロックのほか、3Dスキャン計測データを用い3Dプリントで制作された100年前の帝国ホテル模型を公開しています。
模型の原型はライトが深く交流のあった武田五一に贈ったもので、京都大学と京都工芸繊維大学が連携し、京都工芸繊維大学KYOTO Design Labの最新の技術力によって複製が制作されたものです。
《模型 3D計測データを用いた3Dプリントレプリカ 帝国ホテル二代目本館模型》建築:フランク・ロイド・ライト 制作:京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 制作:2023年 京都大学(原作模型所蔵)
帝国ホテルは、外国からの宿泊客が東京の文化を体験することができる、宿泊の機能を超えた社交場でもありました。
850人もの収容を可能にした宴会場や300席あるテラス付きのキャバレー・レストランやダンス場が備わり、客室が占める割合は、スペースや機能、費用のいずれにおいてもホテル全体の半分以下。近代都市における新たなホテル文化の象徴でもありました。
「セクション4:交差する世界に建つ帝国ホテル」会場風景
1930年代後半からライトが取り組んだのは、一般的なアメリカ国民が住むことのできる安価で美しい住宅、ユーソニアン住宅です。素材についても強い関心をもち、地域に根ざした材料を用いる一方で、コンクリートの持つ一体性に着目し、グッゲンハイム美術館のような巨大建築も実現しました。
会場では、ユニット・システムの実践例であるユーソニアン住宅の原寸モデルが設置され、実際の空間を体験することができます。
「セクション5:ミクロ/マクロのダイナミックな振幅」会場風景
帝国ホテルをはじめ、ライト建築は水平方向への広がりが印象的ですが、垂直に伸びる高層建築にも関心を示し、高層ビルの設計に取り組みます。
新しい工学・構造技術を開拓し、ジョンソン・ワックス・ビルでは実現不可能と言われた直径23センチの細い柱が上昇するにつれ大きく広がり天井を支える「樹状柱」を考案。
独立後初の大規模プロジェクトとなったラーキン・ビルの新社屋の設計では、明るく開放的ながら機能的なオフィス環境を整えました。
「セクション6:上昇する建築と環境の向上」会場風景
多様な文化との出会いから刺激を受けてきたライト。最後のセクションでは、ヴェネツィアの運河沿いで計画されたマシエリ記念学生会館やイスラム文化との出会いから生まれた大バグダッド計画など、アメリカ国外の作家たちとの交流も取り上げています。
「セクション7:多様な文化との邂逅」会場風景
四半世紀ぶりとなったライトの本格的な回顧展。会場内では、セクションの毎の境目を点線で区切っています。全てのセクションが、帝国ホテルを紹介している「セクション4」に繋がっているため、会場内を行き来しながらライト建築を存分に紐解くことができます。
[ 取材・撮影・文:古川 幹夫、坂入 美彩子 2024年1月10日 ]