印象派を代表する画家のひとり、クロード・モネ(1840-1926)。〈積みわら〉〈睡蓮〉などをモチーフにした連作をはじめ、その作品は世界中で愛され、収蔵している美術館では目玉作品として紹介されています。
1874年にモネが仲間とともに開催した第1回印象派展から、ちょうど150年。海外30館以上を含む国内外40館以上から、モネの代表作60点以上が一堂に集結する展覧会が、上野の森美術館で開催中です。
上野の森美術館「モネ 連作の情景」会場入口
展覧会は時系列の5章構成、第1章「印象派以前のモネ」から始まります。モネは1840年11月14日、パリ9区生まれ。風景画家のブーダンの助言を受けて、18歳頃から戸外で風景画を描き始め、1865年にはサロンに初入選を果たしました。
ただ、その後はサロン落選が続き、経済的にも困窮。高さが230cmを超える大作《昼食》も周到に準備した意欲作でしたが、1870年のサロンで落選しています。
(左から)《昼食》1868-69年 シュテーデル美術館 / 《桃の入った瓶》1866年頃 アルベルテヌィスム美術館、ドレスデン
第2章は「印象派の画家、モネ」。1874年春、モネは仲間たちとともに、パリで第1回印象派展を開催。新たな発表の場を得て、精力的に制作していきました。
モネはセーヌ川流域を拠点に、各地を訪問しました。風景画家のドービニーに倣って、ボートの上に小屋を設えたアトリエ舟をつくり、これに乗って川面や水辺の光景を多数描いています。
(左から)《モネのアトリエ舟》1874年 クレラー=ミュラー美術館 / 橋から見たアルジャントゥイユの泊地 1874年 三重県立美術館
パリから60kmほど離れた場所を描いた《ヴェトゥイユの教会》も、ボートの上で制作された作品です。
教会を中央に据え、街並みの下には、緑の土手とボート遊びに興じる人々を描写。画面の下半分に描かれた、揺らぐ水面への映り込みの表現は見事です。
(左から)《ヴェトゥイユの教会》1878年 スコットランド・ナショナル・ギャラリー、エディンバラ / 《ヴェトゥイユの教会》1880年 サウサンプトン市立美術館
第3章は「テーマへの集中」。モネは新たな画題を求めて、ヨーロッパ各地を訪問。時には数ヶ月も滞在し、人影のない海岸などを好んで描きました。
展覧会のメインビジュアルでもある《ヴェンティミーリアの眺め》は、イタリアのボルディゲラからフランス方面を見た風景です。前年にルノワールと旅した景色に魅了され、翌年にひとりで再訪して描きました。
輝くような光に魅力されたのか、それまであまり用いられなかった青やピンクも使われています。
(左手前)《ヴェンティミーリアの眺め》1884年 グラスゴー・ライフ・ミュージアム(グラスゴー市議会委託)
エトルタは、ノルマンディー地方の切り立った断崖と奇岩で有名な海辺の景勝地です。ドラクロワやクールベも、この地の奇岩を描いています。
モネは1883年から86年にかけて、毎年この地で制作しました。並んで展示されているふたつの作品は制作年に3年の開きがあり、色使いにも変化が見られます。
(左から)《ラ・マンヌポルト(エトルタ)》1883年 メトロポリタン美術館 / 《エトルタのラ・マンヌポルト》1886年 メトロポリタン美術館
第4章は「連作の画家、モネ」。1883年、モネはセーヌ川流域のジヴェルニーに移住。自宅付近の積みわらが、光を受けて刻々と変化する様子を同時進行で何枚も描いた「連作」は好評を博し、国際的な名声を得ました。
〈積みわら〉の連作は、1880年代中頃から91年にかけて制作されています。
(左から)《積みわら》1885年 大原美術館 / 《ジヴェルニーの積みわら》1884年 ポーラ美術館
英国のテムズ川に架かる〈ウォータールー橋〉も、連作のモチーフになりました。モネは、1899年から1901年に3度ロンドンを訪問。滞在したホテルからテムズ川下流の方向を見て描いています。
モネはわざわざ霧の深い冬を選んでロンドンを訪れるなど、ロンドンの名物である霧によって変化する複雑な光を捉えようとしました。
(左から)《ウォータールー橋、ロンドン、日没》1904年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー / 《ウォータールー橋、ロンドン、夕暮れ》1904年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー / 《ウォータールー橋、曇り》1900年 ヒュー・レイン・ギャラリー
最後の第5章は「『睡蓮』とジヴェルニーの庭」。ジヴェルニーの自宅は、モネの創作にとって最大の着想源といって良いでしょう。「花の庭」と「水の庭」を本格的に整備、次第に制作の大半は〈睡蓮〉になっていきました。
ロサンゼルス・カウンティ美術館の《睡蓮》は、池の水面を間近に捉え、まるで大画面の一部のような作品です。クローズアップした構図を素早い筆致で捉え、青や紫などさまざまな色で描かれています。
(左から)《睡蓮》1897-98年頃 ロサンゼルス・カウンティ美術館 / 《芍薬》1887年 ジュネーヴ美術歴史博物館
晩年のモネは視覚障害に悩みながらも、86歳で亡くなるまで制作を続けました。
ハッソ・プラットナー・コレクションの《睡蓮の池》は、モネ晩年の大作の一つです。庭の樹々や空の雲が池の水面に映し出され、その色と形が睡蓮の花や葉と交ざり合い、明るく暖かな色彩が調和しています。
(左から)《睡蓮の池の片隅》1918年 ジュネーヴ美術歴史博物館 / 《睡蓮の池》1918年頃 ハッソ・プラットナー・コレクション
「100%、モネ」というキャッチコピーどおりの、まさにモネに包まれる展覧会。素描や下絵は含まれないので、会場は充実感たっぷり。初来日の作品もありますので、古くからのモネファンも見逃せない、この秋最大の注目美術展でしょう。
3カ月超の会期ですが、会期終盤は混雑しますので、早めの鑑賞をおすすめいたします。東京展の後に、大阪に巡回します(大阪中之島美術館 2024年2月10日~5月6日)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年10月19日 ]