富山、石川、福井の北陸3県の工芸をテーマに、その魅力を発信する芸術祭「北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI」。2020年からはじまり、今回で4回目となりました。
今回は富山市の会場に、26名のアーティストが参加。工芸をはじめ、現代アート、アール・ブリュットの作品が並びます。
「北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023」会場のひとつ、環水公園
今回の「GO FOR KOGEI」は、富山市だけでの開催。市の中心部から富岩運河(ふがんうんが) 沿いに、3つのエリアで開催されています。
まずは、富山駅に最も近い環水公園エリアから。樂翠亭(らくすいてい)美術館で展示されている桑田卓郎(1981-)は、陶芸家であると同時に、現代アーティストとしても活動中。今回の作品は制作途中で生まれた大量の未完成品で構成し、美の概念を問い直します。
桑田卓郎《美濃焼》2023
同じ樂翠亭美術館では、近藤高弘(1958-)の作品も展示されています。25歳から陶芸の道に進んだ近藤は、東日本大震災を経て、自然をコントロールしようとしてきたそれまでの制作を問い直しました。
2012年からは、自身をかたどった「坐像」の制作を開始。亡くなった方への鎮魂であり、現世に生きている人、時代を映す「現世身」でもあります。
近藤高弘
富岩運河環水公園にある青い犬を手がけたのは、久保寛子(1987-)。久保はアメリカで彫刻を学び、先史芸術や民族芸術、文化人類学などを手がかりに、作品を制作しています。
今回の作品はヤマイヌのツガイがモチーフ。ヤマイヌはかつてはこのあたりにいたとされており、彫刻で再現しました。その場でたやすく手に入る安価な素材を使うことにより、大型の作品をつくる事を可能にしています。
久保寛子《やまいぬ》2023
続く中島閘門(なかじまこうもん)エリアまでは、富岩水上ラインで移動しました。運河のおおよそ中間となる地点に設置されている中島閘門は、水位差を二対の扉で調節するパナマ運河方式の閘門で、昭和の土木構造物では全国で初めて国の重要文化財に指定されました。
船に乗りながら、高低差2.5mの「水のエレベーター」を体験できるのは、日本ではここだけです。
富岩水上ライン
中島閘門のすぐ脇にあるのは、上田バロン(1974-)の作品。ゲームや出版、広告、アパレル等で活躍するイラストレーター、アーティストです。
作品のモチーフは、北陸に伝わるタコの物語です。船に乗ったまま見ると、作品の位置が変わるのをお楽しみいただけます。
上田バロン《夢幻の星屑》2023
渡邊義紘(1989-)は、いわゆるアール・ブリュットの作品です。幼い頃から昆虫や動物など生物に興味を持ち、10歳の頃に切り絵や折り紙に出会ってからは、生き物の造形をつくるようになりました。
作品はクヌギの葉を折ってつくったもの。葉の周りのギザギザをハサミで切り落とした後は、息を吹きかけて葉の表面の水分を調整しながら、接着剤もハサミも使わずに指先で折り上げていきます。
渡邊義紘《折り葉の動物たち》2012-2022
河部樹誠(1955-)の作品「首かり」シリーズは、著名人、偉人の似顔絵シリーズです。モチーフは河部が任意で選んだ歴史上の人物たちで、政治家、芸術家、芸能人から漫画のキャラクターまで、さまざまです。
「首かり」シリーズのきっかけはロシアによるウクライナ侵攻で、その怒りが動機になっているとの事。河辺が多くの人の前で作品を披露するのは初めての機会のため、不安と楽しみが混在していると語っていました。
河部樹誠《首かり200 余人》2022-2023
最後が富岩運河の終着地の岩瀬エリア。江戸時代から明治時代にかけて北前船の寄港地として繁栄しました。廻船問屋が軒を連ねる旧北国街道沿いに、作品が点在しています。
ソフビのような軽いイメージの作品は、コムロタカヒロ(1985-)によるもの。幼少期からアメコミやフィギュアに親しんできたコムロは、幼い頃に熱中した大切なイメージを造形化しています。
コムロタカヒロ
カラフルな布が屹立しているような目を引く作品は、古川流雄(1955-)です。布やポリエステル樹脂を用いた、ダイナミックな形態です。
美術館での展示は作品だけに集中するのに対し、屋外での展示は天気や時間で見え方も変わりますが、それらの変化も含め、作品と環境との関係が広がるのは楽しい、と語っていました。
古川流雄
それぞれのエリアにある作品は、徒歩で鑑賞が可能。エリア間の移動は、前述した富岩水上ラインに加え、路面電車が便利です。
早朝から回れば、1日ですべての作品を見ることができますが、ぜひ宿泊して近隣の施設もお楽しみください。富山市ガラス美術館、富山県水墨美術館、高志の国文学館など、充実したミュージアムも数多くあります。
特集コーナーには、総合監修・キュレーターを務める東京藝術大学名誉教授の秋元雄史さんへのインタビューもあります。あわせてご覧ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2023年9月14日・17日 ]