美術に馴染みがない人にとっては、やや難しそうに感じられる事も多い日本美術。ただ、見方を変えると、それほどハードルは高くありません。
出光美術館で開催中の本展は「鑑賞入門」と冠して、日本の美術作品をたのしむ企画。キーワードは「しりとり」です。
出光美術館「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」会場
「しりとり」とはいえ、言葉あそびのしりとりではなく、作品に何がどのように描かれているのか観察し、作品どうしの「イメージの共通点」をみつける趣向です。まずは第1章「ふたつでひとつ」から見ていきましょう。
酒井抱一の《風神雷神図屏風》は、右の画面に緑色の風神、左には白い雷神。もとは風神と雷神だけを絵画で表現することはありませんでしたが、江戸時代以降、このふたつの神を合わせてひとつの屛風とする表現が生まれました。
《風神雷神図屏風》酒井抱一 江戸時代 出光美術館
一方、龍と虎の組み合わせは、古来から権力の象徴として描かれてきました。
唐時代の禅宗の僧である馬祖と臨済は、「あ・うん」の表情でセットになっています。
(左から)《龍虎図》伝俵屋宗達 江戸時代 出光美術館 / 《馬祖・臨済画賛》仙厓義梵 江戸時代 出光美術館
第2章は「いろいろな水のかたち」。水のすがたをあらわした作品で、イメージのしりとりを楽しみます。
《波濤小禽図屏風》は、勢いよく打ち寄せる波が、画面全体に描かれた作品。豪快さと同時に、雲や霞は金で装飾され、華やかな一面も見て取れます。
《波濤小禽図屏風》狩野常信 江戸時代 出光美術館
同じ水でも、こちらは滝を描いた作品。《布曳飛瀑図》は、三重県の名所である「布引の滝」を描いたものです。
右下の文章には、実際に見た滝を描いたと書かれています。
(左から)《布曳飛瀑図》山本梅逸 弘化2年(1845)出光美術館 / 重要美術品《養老勅使図》田中訥言 江戸時代 出光美術館
最後の第3章は「たくさんの図柄」。冒頭の《美人鑑賞図》には、草花や生き物、風景などさまざまなイメージが描かれており、展示室にはそれらのイメージを用いた作品が並びます。
順路を気にせず、行ったり来たりしながら、宝さがしをするように鑑賞してみてください。
《美人鑑賞図》勝川春章 江戸時代 出光美術館
例えば、画面右側の奥には牡丹の花があります。牡丹は大輪の花を咲かせることから「百花の王」「富貴花」と呼ばれ、富の象徴でもありました。
板谷波山の《葆光白磁牡丹彫紋花瓶》は、真っ白な花瓶の胴体に、牡丹が表現されています。
《葆光白磁牡丹彫紋花瓶》板谷波山 大正11年 出光美術館
《美人鑑賞図》には3つの掛軸が描かれています。寿老人、竹に鶴の2幅は分かりますが、女性が手にしている3つ目は画題が分かりません。
展覧会の最後には、3つ目の画題を考えてみる「ヒント」がありますが、もしかしたら全く別のものである可能性も。ここまでの鑑賞を踏まえて、自分なりに想像を働かせてください。
《雑画巻》鈴木其一 江戸時代 出光美術館
作品の制作年代は鎌倉時代から現代の作品まで幅広く、ジャンルも絵画から工芸までと多彩です。
お気に入りの一点を探して、作品の前ですこし立ち止まってみてください。それだけで、鑑賞のたのしさは大きく広がります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年8月7日 ]