豊田市美術館で、「吹けば風」展が始まりました。展覧会のタイトルは、詩人の高橋元吉の「なにもそうかたを……」の一節、「咲いたら花だった 吹いたら風だった」からとられています。
とはいえ、タイトルを聞いただけでは、どのような作品が展示されるのか、まるで見当がつきません。どうやら、現代美術作家4人のグループ展らしいということは、人づてに聞きました。さて、どのような作品が鑑賞できるのか、楽しみです。
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階段の壁面に大きな展覧会のタイトル
作品点数は約40点、展示室は2階と3階になります。階段を上ると、左側の壁面に展覧会のタイトルが見えます。タイトルの一部の「風」が、壁面の上部を突き抜けていて、展覧会の勢いを表しているみたいです。
関川航平の作品は、巨大な斜面のようです。階段をのぼりながら、少しずつベニヤ板の下の部分が見えてきて、「まだ展示作業の途中かな」と疑問に思いましたが、斜面で作品を覆い隠しているわけでもなく、目に見えるものが作品でした。
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関川航平 《夊》
展覧会の会期中、作家が不定期に斜面を利用したパフォーマンスを行うそうです。もし、パフォーマンスを目撃できたら、その方々はラッキーだと思います。
作家は、この作品のことを「精進料理」に例えていましたが、どのように見立てると、斜面が「精進料理」になるのか、まるで禅問答のようです。
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関川航平 《夊》(パフォーマンス)
訪問日には、斜面の手前に入場制限を示す柵や停止線はありませんでしたが、来場者が斜面を登ることはご遠慮ください、とのことでした。
川角岳大の作品は、展示室の東側、西側、北側の大きな窓と、南側の壁面に掛けられています。外光のよく入る部屋なので、お昼ごろと夕方では、ずいぶんと見え方が変わるだろうと思います。
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川角岳大 左から《登り道》、《空き家》、《枯れ木》、《石場》
窓に掛けられた作品は、画面の中の水平と垂直が少し傾いていることもあって、不思議な浮遊感があります。また、《空き家》を見ると、画面の中に傾いた“空き家”と思われる形があり、《枯れ木》を見ると、画面の中に細長い“枯れ木“の形があります。
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川角岳大 左から《Reflection Light》、《Shutter》、《Shooting Star》、《黒い犬》(部分)
一般的な写実絵画を「楷書」とするなら、川角の作品は「草書」のような、崩した面白さを楽しむ作品だと思います。
澤田華の作品は、映像のエコーみたいです。展示室では、プロジェクターと壁面の間に、天井からぶら下げた穴の開いたコピー用紙が漂い、投影される映像を黒い影で隠します。
白い光を白い壁に投影し、コピー用紙で光を遮ると、壁には黒い影が映るのはなぜでしょう。壁はもともと白色だから、影が白くてもいいのではないでしょうか。もし、黒い光を出すライトがあり、その黒い光を遮れば、映る影は白色かもしれません。澤田の作品を見ていると、ポジとネガの逆転した異世界に巻き込まれそうです。
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澤田華 《漂うビデオ(移動、裂け目、白い影)》(部分)
澤田の作品は、あいちトリエンナーレ2019で見て以来、久しぶりでした。作家に、「ずいぶんと変化しましたね」、と聞いたら、「いいえ。やっていることは変わらないです」と返されました。まだまだ、作品の読み込みが足りないようです。
船川翔司の作品は、大きな楕円のスクリーンに映し出された歌う少女の映像と、奥の部屋に設置された大型扇風機から噴き出す強烈な風が印象的です。
それ以外にも、いろいろと小さめの作品がたくさんあります。どうやら仕掛けが隠れているようなので、もう一度、見に行こうと思います。
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船川翔司 《双子の歌》(部分)
コレクション企画「枠と波」
コレクション展には、1960年代から1970年代の作品が出品されています。「吹けば風」展からさかのぼること約50年。半世紀前の作家達が見ていた世界をたどります。
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展示風景
櫃田伸也のまとまった展示コーナーもありました。風景の作品がよかったです。
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展示風景
その他に、作品のモチーフになった写真類と一緒に展示プランの模型が並んでいました。
模型の壁は、どちらもミラー仕様になっていて、実現したら面白そうなプランでした。
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展示風景
ミュージアムショップにて
おみやげにちょうどいい、面白いものがあります。右側に吊り下げられた手提げバッグの模様をよく見てください。何か心当たりはありませんか。
そう、「ねこの細道」展のポスターになっていた《ねこ》の頭部の一部です。
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アップサークルバッグ(デザイン:株式会社小野デザイン事務所 バナー洗浄、制作:NPO法人まほうのらんぷ)
豊田市美術館のミュージアムショップでは、展覧会のバナー(屋外幕)をアップサイクルして、一点物のバッグに仕立てています。《ねこ》のバッグの向こう側に見える「吹けば風」展のバナーも、秋にはアップサイクルされ、モダンなバッグに変身するようです。面白い取り組みだと思います。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2023年6月26日 ]
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