2月11日(土・祝)から4月9日(日)まで京都岡崎の大きな鳥居近くにある京都国立近代美術館にて2度目となる甲斐荘楠音展が開催されています。会場を何度も巡れば巡るほど楠音の人物像が伝わってくる、本館の60周年記念にふさわしい魅惑的な展覧会です。
楠音のことを知らずに訪れても、楠音の沼に・・・魅力に・・・どんどん引き込まれる。そんな巧みな展示マジックで、楠音の全てを、とてもわかりやすく楽しむことができました。
京都国立近代美術館 会場
京都国立近代美術館 会場
会場は5つの章から成り立っています。
序章「描く人」では、楠音の代表作品をダイジェスト風に展示。楠音がその生涯でどんな作品を描いてきたのかが、よくわかります。 どれをとってもグッときて立ちすくんで見てしまうような作品群たちに、物語のページをめくるように引き込まれていきます。
櫛を横さす美しくて愛らしい女性を描いた2枚の《横櫛》。楚々とした姿を描きながら、その内面から醸し出される妖しさ、艶かしさに、楠音の独自の感受性を感じました。楠音はどう感じて描いていたんだろうと、その心情を察したくなる作品です。
《横櫛》 左:1916年 京都国立近代美術館、右:1918年 広島県立美術館(前期展示:3月12日まで)
第1章「こだわる人」は、楠音の描くことへのこだわりについて。 同じモデルを色々な構図やタッチで描いたスケッチからは、彼が絵を描くうえでの真摯な姿と一途な絵心が伝わってきます。
その研究熱心な姿勢は実に多方面で、時には自身で女装し、女形になりきることもあったとか。きっと心情、心境から全てを感じとれるように、模索し続けてたんでしょう。 ここでは彼の好奇心が寄せ集められた数々の写真やスクラップブックも展示されています。まるで楠音の頭の中を覗いているかのよう。日々どんなことを考えながら制作していたのかなと、ますます想像が膨らみます。
《写真資料》
《スクラップブック》
第2章「演じる人」。
幼い頃から大人たちにつれられて観劇にいそしみ、その感動を描く日々を送っていた楠音。中でも歌舞伎が大のお気に入りでした。
浮世絵師の歌麿を崇拝していた楠音が、扮すること、演ずることをどれだけ愛して執着していたのか。楠音が求めていた理想の美の形はどんなだったんだろう。ここでは、とにかく多方面から楠音ワールドに連れて行かれます。
《太夫に扮した楠音》
第3章「越境する人」では、日本画家からより芝居表現に携わる映画の世界へ。
台本を読み、そこから膨らむイメージ、デザインを描き、また衣装の時代考証から試作と、楠音は映画美術のクリエーターとして活躍しました。
ここはとにかく圧巻の世界。主演役者の衣裳代だけで他の役者の衣裳予算が吹き飛んだという、楠音のこだわりが感じられて、昔の映画に無知な私もとても興味深く見て回ることができました。また今回初公開となるパリから里帰りしてきた作品も見ものです。
展示風景
終章「数奇な人」では、20代の頃から60年間何度となく描き直してきたが、未完に終わった2つの作品に出会うことができます。
特に《虹のかけ橋(七研)》は、太夫の表情が何とも言えず、その美しさにうっとりと見惚れてしまいます。もう一方の《畜生塚》は全く異なる世界で、楠音という人の多才な引き出しを感じるコーナーでした。
《虹のかけ橋(七妍)》、1915-76(大正4-昭和51)年頃、絹本着色・六曲一隻、180.0×370.0cm、京都国立近代美術館
楠音でテンション上がって、情感いっぱいとなったところで4Fへ。もし少々お疲れなら展望の美しいソファーでくつろいでからというのもいいかも知れません。
ここではリュイユというフィンランドの織物に出会えます。 とても毛足が長くて、織物という既成概念にとらわれない面白い作品たちです。何かしら日々の生活に取り入れられそうな、インスピレーションが湧いてくる、そんな楽しげなコーナーでした。
《トゥオマス・ソバネン・コレクション展》
さて、作品に満たされたところで、ちょっとお茶の時間はいかがでしょうか。
テラス席もある1Fのcafé de 505では甲斐荘楠音展の開催中、楠音の作品にオマージュしたとても美味しくて、それはそれは可愛らしいパフェが1日10食限定でいただけます。
パフェのタイトルは《ふるへる女心の情念パフェ》。私はビターチョコフレークの食感が(元々はフレーク入りのパフェはそんなに好きじゃないのに)とても気に入りました。そしてベリーのソースにヨーグルトアイスが絡んで、舌の上でたまらない味わいに。上に飾られたサブレ生地のクッキーと胡麻のチュイールも食感の違いが楽しめます。
《ふるへる女心の情念パフェ》
楠音の作品にふれ、目が喜び、舌が喜び、ワクワクする楽しい美術館巡りの1日が待っています。是非、京都岡崎の近代美術館へ遊びにいらしてください。ハマること間違いなしです。
[ 取材・撮影・文:Marie / 2023年2月10日 ]
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