2023年1月、開館1周年を2月に迎える大阪中之島美術館の「大阪の日本画」展に足を運んでみました。“浪華の名画大集結”ということで新春にふさわしく会場には大きく艶やかな色彩の作品が出迎えてくれました。
大阪中之島美術館 館内 長いエスカレーターはワクワクします
明治から昭和にかけて大阪で活躍した北野恒富、菅楯彦、矢野橋村などを中心とし、60名を超える画家の作品が一堂に並びました。会場は6つのテーマ①ひとを描く ②文化を描く ③新たなる山水を描く ④文人画 ⑤船場派 ⑥新しい表現の探究と女性画家の飛躍 と展開します。
まず当時大きく花開いた北野恒富とその門下による大阪の「人物画」。透き通るような白い肌や古風な描写ですが着物の柄には少しモダンなものや妙にリラックスした姿や表情が新鮮です。妖艶さとしなやかさは大胆な構図も伴って、絵の中から何か語り掛けられているような気持になりました。
中村貞以「失題」大正10年 大阪中之島美術館
北野恒富「紅葉狩」大正7年 前期展示 大阪中之島美術館
この頃の大阪は豊かな経済力に支えられる商都として大きく発展します。活気ある庶民の生活や伝統文化、祭りなどは格好の画題となり生き生きと描かれました。菅楯彦とその弟子・生田花朝などにより今も継承される大阪の風物詩画が並びます。
『浪速文人図』には近世大阪文化を代表する人物が9人、経済を基盤に自由な発想の表現で人気を博した市民文化の発展がみられます。
菅楯彦「浪速文人図」昭和14年 大阪府立中之島図書館
かと思えばこちらは『職業婦人絵巻』。女性の活躍する仕事場はモダンな一面も見え、ワイワイと弾む会話が聞こえてくるようです。
菅楯彦「職業婦人絵巻」1巻より部分 大正10年 前期展示 場面替あり 関西大学博物館[展示期間:1/21~2/19]
天神祭の風景はクライマックスの花火があがり、船渡御の賑わいは今と同じです。
神妙に装束を纏う者などの群像と青い大川をゆく船、そして赤い提灯が点々とし、夏の輝く一瞬を切り取っています。
内田稲葉「浪速天神祭船渡御之図」昭和48年
生田花朝「天神祭」昭和10年頃 大阪府立中之島図書館
そして今も大阪美術倶楽部の舞台緞帳として使用されている『浪華三大橋緞帳』は現物を観ることができ、橋と共にあるかつての大阪が彷彿とされます。
菅楯彦「浪華三大橋緞帳」昭和32年頃 株式会社大阪美術倶楽部 展示室ロビーに展示
一方、多くの画家が船場、中之島周辺を居住として集まり、「船場派」と呼ばれます。穏やかな色調で澄んだ空気感のある花鳥画などは富を得た商家の床の間を飾り、日々目にして楽しまれました。
(左)平井直水「梅花孔雀図」明治37年 大阪中之島美術館 / (右)深田直城「荒磯鯛図」昭和9年 大阪中之島美術館
床の間イメージ 展示風景
そして最後には女性画家の活躍に視点をあてた作品が並びました。富裕層の子女には教養として絵筆を持ち、頭角を現す者も数多く存在しました。それまでにない女性ならではの視点での表現や時代の変化を取り入れたモダンな生活の側面を描くことができたようです。
中村貞以「朝」昭和7年 京都国立近代美術館[前期展示]
大阪の日本画は京都や東京とは少し違う特徴が感じられました。時代を動かした大阪商人の経済力は当時の社会、文化になくてはならない根幹でした。そんな基盤があったからこそモダンと古典をうまく融合し、大阪という風土を大切にし、新しい時代への希望を込めたリズミカルな画風で多くの作品が生まれたのかもしれません。
新鮮な気持ちで鑑賞しましたが、一番気になったのは『大正初年浪花十八逸合作』でした。弁護士白川朋吉氏を囲んでの交遊の場で著名な大阪の画家たち18人が揮毫合作したもの。野菜果物が並ぶさまは私の頭の中では若冲の『果蔬涅槃図』をどこか思わせましたが、経済で支えた白川氏の人物像やそこに集う画家たちの輪を想像させられてしまいました。
菅楯彦ほか「大正初年浪花十八逸合作」大正3年 大阪中之島美術館
大阪中之島美術館は開館1周年ということで記念イベントも実施されます。寒い時ではありますが、中之島や船場に残る近代建築群と併せて“大阪さんぽ”をお勧めします。今日の私のおやつは、美術館へのプロムナードもつながる隣接のダイビル本館1階の「Cafe AMADEUS STORY」で可愛い花ドーナツをいただきました。
低層階に1926年の旧ビルの体裁を保存した「ダイビル本館」はモダンな意匠が残ります
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2023年1月20日 ]
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