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    レポート
    佐伯祐三 自画像としての風景
    東京ステーションギャラリー | 東京都
    東京では18年ぶり。代表作100余点が一堂に会する佐伯祐三の大規模回顧展
    佐伯が過ごした大阪、東京、パリ。風景画のほか、人物画や静物画も紹介
    本格的に画業に取り組んだのはわずか4年余り。最晩年に描いた作品も必見

    近代日本を代表する洋画家の佐伯祐三(1898-1928)。30年という短い生涯の中で「大阪」「東京」「パリ」の3つの街で画業に取り組みました。佐伯が都市風景を題材としたことに注目し、それぞれの街での選りすぐりの代表作を紹介する展覧会が、東京ステーションギャラリーで開催中です。


    東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 自画像としての風景」 入口
    東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 自画像としての風景」 入口


    会場にまず並んでいるのは、佐伯の自画像。学生時代に、自らの内面を見つめるかのように多くの自画像を描いている佐伯ですが、どの自画像にも椅子や机などの背景がないのが特徴です。

    パリに渡った後も、セザンヌやヴラマンクに影響を受けて描かれた自画像もありますが、佐伯の画業の中でも自画像を描いたのはわずか4年ほど。その後は、自己から風景へと視線が向けられます。


    会場風景 「プロローグ 自画像」
    会場風景 「プロローグ 自画像」


    大阪で生まれた佐伯は、従兄の影響で美術に興味を覚え、1918年に東京美術学校へ入学。私生活では親族を相次いで病気で亡くし、自らも肺病の不安を抱えながらも、制作活動を続けます。

    美術学校を卒業した後、2年間パリへ留学をします。1926年の帰国の際には、昔ながらの日本家屋が並ぶ高低差の多い東京の下落合の風景を題材としていきます。


    会場風景 「坂と〈柱〉の日本―下落合と滞船」
    会場風景 「坂と〈柱〉の日本―下落合と滞船」


    一方、大阪でテーマとしていたのは安治川などに係留されていた船です。周辺の情景は描かれず、すべて真横から描かれた連作「滞船」が描かれています。帆柱の形状やロープの重なりなど“線”による描写は、2度目のパリでの線描につながるものがあります。


    会場風景 「坂と〈柱〉の日本―下落合と滞船」
    会場風景 「坂と〈柱〉の日本―下落合と滞船」


    風景画の印象の強い佐伯ですが、会場には静物や人物作品も紹介しています。妻の米子や一人娘の彌智子、友人や下宿先の人々も自画像と同様、正面を向いたものや少し斜め向いたポーズで、モデルの特徴をとらえたデフォルメされた線で描かれています。

    静物画では、簡略化された机の中央に対象物が大きく描き出されています。形態を的確に捉えながら、筆の勢いをつけて素早く描いていることが分かります。


    会場風景
    会場風景


    2階では、パリ時代の作品を紹介していきます。2回にわたりパリに渡った佐伯は、少しずつ自分のスタイルを変化させていきます。

    第1次パリ時代、対象は郊外の風景からパリの街並みへを移ります。佐伯は、独自の審美眼で下町の景色の中にある一棟を画面全体にクローズアップしていきます。


    会場風景 第2章 パリ
    会場風景 第2章 パリ


    生涯を通して一つのモチーフに執着して何点も描いていた佐伯。会場内でも同じ建物を描いた作品が2点ずつ展示されています。

    1926年に金銭面や体調面により帰国せざるを得なかった佐伯ですが、このころから広告に興味をもち、モチーフの一つとして壁に収めるようになります。


    (左から)《コルドヌリ(靴屋)》 1925年 石橋財団アーティゾン美術館 / 《コルドヌリ(靴屋)》 1925年頃 茨城県近代美術館
    (左から)《コルドヌリ(靴屋)》 1925年 石橋財団アーティゾン美術館 / 《コルドヌリ(靴屋)》 1925年頃 茨城県近代美術館


    1927年の8月に再度パリへ訪れた佐伯は、石造りの壁や壁面が連なる街並みを次々と描き出します。硬質の石壁のアクセントとなっているのが、細い線です。これは、下落合での風景や滞船で試みた電柱や帆柱の線を展開したものといえます。


    会場風景 第2章 パリ
    会場風景 第2章 パリ


    1928年以降になると、墨で描かれた様な輪郭で素早く建物を描くようになります。筆が走っている様子から、一見すると自由に描かれていると思われますが、多くの研究でも写実的に描かれていることが指摘されています。

    佐伯は1日2~3枚も制作するほど早描きだったため、躍動した線はポスターや木々、街路樹、サインにまでみられます。


    会場風景 第2章 パリ
    会場風景 第2章 パリ


    パリから40キロ離れた小さな街・ヴィリエ=シュル=モランへ写生旅行した際には、素朴な田舎街の魅力に制作意欲をかき立てられ、20日ほどの滞在で30数点の作品を生み出します。パリで描かれていたポスターの文字や華やかな色彩との対比が感じられる作品です。


    会場風景 第3章 ヴィリエ=シュル=モラン
    会場風景 第3章 ヴィリエ=シュル=モラン


    モランからパリへ戻った後、佐伯は風邪をこじらせ床につく日々が続きます。そんな中、モデルとなったのが郵便を届けに来た白髭の配達夫と、ロシアの亡命貴族の娘です。

    エピローグで紹介されている扉を描いた2枚の作品。1928年の夏に息を引き取った佐伯ですが、体力が回復した際に戸外で描かれた、絶筆といわれている作品を会場の最後にご覧いただけます。


    (左から)《郵便配達夫》 / 《郵便配達夫(半身)》 ともに1928年、大阪中之島美術館
    (左から)《郵便配達夫》 / 《郵便配達夫(半身)》 ともに1928年、大阪中之島美術館


    東京では、練馬区立美術館での「佐伯祐三-芸術家への道-」以来、18年ぶりの開催となった佐伯の大規模展。 短い生涯ながら、凝縮された佐伯の画業の変遷をたどれる機会となっています。

    また、展覧会は4月に、多くの佐伯祐三コレクションを有する大阪中之島美術館へ巡回します。

    [ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2023年1月20日 ]

    会場風景 第2章 パリ
    会場風景 第2章 パリ
    (左から)《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》 1927年 大阪中之島美術館 / 《テラスの広告》 1927年 石橋財団アーティゾン美術館
    (左から)《カフェ・タバ》 1927年 個人蔵(大阪中之島美術館寄託) / 《ピコン》 1927年 個人蔵
    (中央)《立てる自画像》 1924年 大阪中之島美術館
    (上から)《蟹》 1926年頃 個人蔵(大阪中之島美術館) / 《にんじん》 1926年頃 高島匡夫氏蔵
    (左から)《米子像》 1927年 三重県立美術館 / 《彌智子像》 1923年 大阪中之島美術館
    会場風景
    会場
    東京ステーションギャラリー
    会期
    2023年1月21日(土)〜4月2日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    ※金曜日は20:00まで
    ※入館は閉館の30分前まで
    休館日
    月曜日(3/27は開館)
    住所
    〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1 JR東京駅 丸の内北口 改札前
    電話 03-3212-2485
    公式サイト https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
    展覧会詳細 「佐伯祐三 自画像としての風景」 詳細情報
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