フランスのファッションデザイナー、クリスチャン・ディオール(1905-1957)が創立したファッションブランド、クリスチャン・ディオール。その知名度の高さは改めて言うまでもありませんが、日本に最初に進出したファッションブランドであることは、あまり知られていないかもしれません。
パリ装飾芸術美術館をはじめロンドン、ニューヨークなど各国で開催されてきた展覧会が、いよいよ日本に巡回。日本との関係も踏まえながら、ディオールならではの世界を紹介する展覧会が、東京都現代美術館で開催中です。
東京都現代美術館
会場は13の部屋でディオールの世界観を紹介していく構成です。ここでは目に留まったエリアをご紹介していきます。
会場を入って2つ目の部屋は「ニュールック」。クリスチャン・ディオール最初のコレクションは1947年に開催されました。
アメリカの雑誌『ハーパーズ バザー』の編集長であるカーメル・スノーは「ニュールック」と称し、ゆったりとしたスカートの「コロール(花冠)ライン」と、細見のスカートが特徴的な「8(エイト)ライン」という、2つの代表的なシルエットが注目を集めました。
「ニュールック」
3つ目は「ディオールと日本」。ディオールは1953年に鐘紡および大丸と契約を結び、両社はディオールの型紙で服を製造。同年には帝国ホテルでファッションショーも開催されています。
1959年にメゾン ディオールは、明仁親王殿下と正田美智子さま(現在の上皇ご夫妻)の結婚式用のドレス3着を制作する名誉にもさずかっています。
「ディオールと日本」
4つ目の部屋では、メゾン ディオールを率いたデザイナーごとの服を紹介。手前から奥に向かって、新しい順に並びます。
クリスチャン・ディオールは、1957年に心臓発作で急逝。以後、イヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、そして現在のデザイナーであるマリア・グラツィア・キウリと、そのスピリッツが継承されていきました。
各デザイナーは、クリスチャン・ディオールが残したものを守りながら、それぞれの解釈で独自の創造性を追求していきました。
「ディオールが残したもの」
続いて見えるのが、展覧会の最大の見せ場といえるコーナー。大きな吹き抜けから見下ろすと、眼下に服が並びます。
服のまわりはプロジェクションマッピングによる映像演出がなされ、壮大な世界観を創出。東京都現代美術館では、どの展覧会でもこの空間の使い方がポイントになりますが、正直、ここまでのインパクトを感じた事はありません。
展覧会の会場を手がけたのは、重松象平氏。建築、都市計画、文化分析に参画する国際的な建築設計事務所であるOMAの、ニューヨーク事務所のパートナーです。
東京都現代美術館「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」会場 吹き抜けから覗いた「ディオールの夜会」
6つ目は「ディオールのアトリエ」。常にメゾン ディオールの中核にあるのがアトリエです。縫製の担当者たちは、伝統的な技術と革新的な技術を駆使しながらドレスを仕立て、複雑なものになると1,000時間以上が費やされます。
デザイン画をもとに、コットンで組まれるドレスの試作品「トワル」は、ドレスの原型になります。装飾は、刺繍職人、羽細工職人、プリーツ職人などの手で仕上げられます。
「ディオールのアトリエ」
9つ目は「ミス ディオールの庭」。クリスチャン・ディオールは植物を愛し、母と一緒に庭づくりに熱中しました。幼い頃から園芸カタログを愛読し、クチュリエになってからも代々伝わる庭園でコレクションのデザイン画を描きました。
1949年には無数の花が刺繍された壮麗なドレス“Miss Dior(ミス ディオール)”を発表。このドレスは、1947年に発売されたクリスチャン・ディオール初の香水を彷彿とさせます。
「ミス ディオールの庭」
10番目は「ディオールのスターたちとJ'ADORE」。1947年の創業直後から、クリスチャン・ディオールの顧客にはグレース・ケリー、リタ・ヘイワース、マレーネ・ディートリッヒなど、さまざまな映画スターが名を連ねました。
メゾンが関与した映画の目録には、アルフレッド・ヒッチコック、ジャン゠リュック・ゴダール、チャールズ・チャップリンなどの有名映画監督が撮影した100本以上の作品が数えられます。
黄金刺繍のドレスは、香水J'adoreのミューズを務める女優シャーリーズ・セロンのためにつくられたものです。この香水は1999年に世に出ました。
「ディオールのスターたちとJ'ADORE」
11番目が「ディオールの夜会」。さきほど上から見下ろした展示を、下から見上げることになります。
上部に設けられたミラーに鏡像が写るため、広い空間がさらに広大な印象。ゆっくりと変わる映像演出に、きっと見入ってしまうことでしょう。
「ディオールの夜会」
12番目は「レディ ディオール」。クリスチャン・ディオールの迷信深さを想起させるチャームと、メゾンの最初のファッションショーに用いられたナポレオン3世様式の椅子から着想を得た「カナージュ」モチーフのステッチがあしらわれたバッグ「レディ ディオール」は、ディオールのスタイルが凝縮されています。
バッグの名前は、1995年に初めてこのバッグを腕に下げて公の場に登場したウェールズ公妃ダイアナに敬意を表して命名されました。
2016年に始まった「ディオール レディ アート」プロジェクトでは、現代アートの作家がバッグを制作。イ・ブル、名和晃平らが参加しています。
「レディ ディオール」
近年、ファッションブランドによる展覧会は拡大する一方ですが、間違いなく段違いといえるクオリティ。東京都現代美術館に来た事がある方なら、ここがあのゲンビなのかと、度肝を抜かれる事でしょう。
ファッション好きはもちろんですが、インテリアやイベントなど空間デザインに関心がある方は、見ておかなければいけない展覧会です。会期は長めなので、首都圏以外の方もぜひ鑑賞を予定に組み込んでください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2022年12月4日 ]