京都には日本の文化を育む風土があるようでいつの時代にも芸術家が集い賑わう場所です。本日の主役、木島櫻谷(1877―1938)は近代京都画壇を代表する日本画家として知られており、多くの作品を残す中「山水画」にスポットをあてた特別展が泉屋博古館・京都にて開催されています。
《画三昧》昭和6年 櫻谷文庫
木島櫻谷
若き櫻谷は写生を重んじました。飛騨地方や富士周辺など頻繁に写生旅行に出かけ、描き溜めた写生帖は数十冊となり各地の風景や生活風俗を写し取っていました。その足取りを紹介するところから第一章はスタートします。道中の風景は技術の高さだけでなく感動を描きこむような丁寧さで、いかに写生を重要視していたかが伺えます。
画友たちと歩いて歩いて描きためた写生帖の展示風景
櫻谷といえば動物画が人気です。6曲1双など大きな屏風絵は四季の風情と共に静かに生きる動物たちを描き込んだ作品が並びます。しかしそれらは写生旅による記憶と想像が混在して創り出した画面でもあるようです。
《細雨・落葉》明治38年 福田美術館[左隻:展示期間:11/3~11/27]
《寒月》大正元年 京都市美術館[展示期間:11/3~11/16]
富士山も幾度も写生していました。冠雪した富士やなだらかな稜線を好んだようで、雲や霧がたなびく穏やかな時間を感じます。そして大分耶馬渓や甲府昇仙峡の大パノラマの記憶は幅11mの《万壑烟霧(ばんがくえんむ)》という理想の山脈として大山水画になりました。京都画壇の重鎮・今尾景年やのちに洋画家・浅井忠の影響を受けて技術がどんどん向上するのと共に、写生で培った技術もその後の山水画に溶け込み、櫻谷の理想郷を創り上げたようです。
《万壑烟霧》(部分)明治43年 株式会社千總
親交のあった大橋松次郎との約束で旅先から送り続けられた絵葉書は、松次郎によって丁寧にまとめられています。画友のスケッチなどほのぼのとして、写生旅を楽しんでいる様子が表れています。
「大橋松次郎に宛てた絵葉書帖」明治~昭和期 京都府(京都文化博物館管理)
泉屋博古館は住友家旧蔵の美術品を中心とする住友コレクションを保存公開する美術館で1970年大阪万博の年に建てられました。この度、住友財団の助成により櫻谷の写生帖も修理整理が進みました。東山の閑静な地を背景に中庭も美しく、美術鑑賞に最適なところです。
心和む秋の中庭
さて、今回の展覧会には様々な連携が企画されました。泉屋博古館を出て、第2会場ともいえる南禅寺塔頭の南陽院を訪ねてみました。本堂ではなんと34歳の木島櫻谷による50面の未公開山水障壁画が特別公開されています。縁あって襖絵を依頼された櫻谷は、写生旅で手に入れた記憶を独自の世界観に変えて描きあげ、5つの部屋すべてに描かれた情景は穏やかでもありちょっとした遊び心の仕掛けもあり、青年期の集大成のようです。
南禅寺塔頭 通常非公開の「南陽院」
本堂5室に未公開50面の襖絵が限定公開
部屋ごとに異なる風景を優しい筆遣いで描いた水墨山水画
もともと木島櫻谷は京都街中に住居を構えていましたので、鴨川や鞍馬貴船、八瀬大原など身近に写生先がたくさんありました。“おうこくさん”と親しまれ、画塾生たちと楽しく過ごしたスケッチの時間が彷彿とでき、その場所を現在の風景と比べてみることも一興です。住居周辺の立ち寄り先などを元にして今回「京都おさんぽまっぷ」も制作されていますので、“櫻谷ゆかりの地巡り”も良いかもしれません。
泉屋博古館での会期や、特に南陽院の特別公開は会期が短く、途中展示入替もありますので注意が必要です。色づき始めた京都南禅寺界隈の散策に木島櫻谷旧邸の特別公開などうまく組み合わせての鑑賞をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2022年11月3日 ]
※南禅寺 南陽院本堂《木島櫻谷山水障壁画》特別公開は、11月3日(木・祝)~11月13日(日)、11月23日(水・祝)~12月11日(日)
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