「もしも猫が人だったら、人が猫だったら」。
江戸時代の浮世絵師・歌川国芳の作品を中心に、猫を擬人化した絵にスポットを当てた『猫好きにはたまらない展覧会』が、名古屋市博物館で開催中です。 博物館に到着すると、さっそく国芳の猫さんが迎えてくれて、気分をアゲてくれます。

博物館入口で猫さんのパネルがお出迎え
入口看板にも猫。頭の上の毬が上下に動いて、猫のヘディングがなごませてくれます。 エントランスや会場内ではAR(拡張現実)も体験できるようになっていて、スマホで二次元コードを読み取ると、国芳が描いた猫さんたちが絵から飛び出して毬を蹴ったり、きせかえで遊べたり。 大人も子どもも楽しめます。

入口看板
この展覧会の主役、歌川国芳。ユニークな画風で「奇想の絵師」と呼ばれ、近年人気急上昇の浮世絵師ですが、国芳が大の猫好きだったことをご存じでしょうか。いつも5、6匹の猫を飼っており、子猫を懐に入れたまま絵を描いていたそう。
下の絵は国芳の自画像ですが、ここでも国芳は5匹の猫に囲まれています。 国芳の猫への深い愛情と細やかな観察から、ユーモアあふれる擬人化した猫が生まれたのです。

歌川国芳『枕辺深閨梅』下巻口絵 個人蔵
擬人化した猫の絵には元ネタがあります。 例えば国芳は、当時流行していた曲芸の見世物を猫の姿で描き、人々の笑いを誘いました。 このコーナーでは元ネタの絵と擬人化した猫の絵が並べて展示され、くらべてみることができるようになっています。
「くらべてみる」はこの展覧会全体の大きなテーマでもあります。

展示風景
「鳥獣人物戯画」をはじめ、日本では古くから擬人化された動物は描かれていましたが、猫が主役になっているものはあまり見られませんでした。 わき役だった「猫」が一気に主役に躍り出たのが、山東京山・作、歌川国芳・画の『朧月猫の草紙』です。

物語の場面が壁一面に。壮観です。
猫の『おこま』の波乱万丈の一代記を描いたこの作品は、シリーズ化されるほどの大人気に。 当時人気だった歌舞伎芝居のストーリーも盛り込まれ、パロディとしても楽しまれました。

山東京山作・歌川国芳画『朧月猫の草紙』三編 個人蔵
作者の山東京山は、歌川国芳に劣らず大の猫好きで有名。 二人の猫好きが描いた物語は、猫の習性やしぐさをよくとらえていて、読者を喜ばせました。 実在の歌舞伎役者に似せて描かれている場面もあり、人々は歌舞伎の舞台と重ね合わせて草紙を楽しみました。

山東京山作・歌川国芳画『朧月猫の草紙』六編表紙 個人蔵
歌舞伎役者の似絵は国芳の得意とするところ。 「猫の百面相」にはそれぞれモデルとなる役者がおり、当時の人々はそれが誰なのか当てることができたようです。 ここではモデルとなった役者と国芳の描いた猫をくらべてみることができます。

歌川国芳『猫の百面相 荒獅子男之助ほか』 個人蔵 右:歌川国芳『四代目中村歌右衛門死絵』 名古屋市博物館蔵(尾崎久弥コレクション)
これも相撲を題材にした歌舞伎の一場面。 表情豊かな猫や、「首ッ玉」「鈴ノ音」など取り組みが書かれた貼り紙もおもしろいですが、 右の猫の着物の模様にご注目。

歌川国芳 双蝶々曲輪日記 角力場 個人蔵
蝶の文様に見えますが、よくよく見ると・・・。 猫の顔にも見えませんか? これは大きな目が特徴だった五代目海老蔵の猫風似絵なんです。

着物の柄は蝶のようですが、よく見ると・・・
『おこま』ちゃんの物語の人気をきっかけに、明治期には「おもちゃ絵」といわれる一枚物の絵にも擬人化された猫がたくさん登場しました。切り抜いて着せ替えたり紙相撲で遊べるものもあります。

おもちゃ絵コーナー 「かつらつけ」のおもちゃ絵で遊べます
会場では要所要所で音声ガイドの解説を聞くことができます。 猫さんの案内表示が目印。

音声ガイドの案内表示もユーモラス
図録も楽しさいっぱい。こうして立てると三毛猫に見えませんか?(顔は自作です…) 本の栞ひもが猫のしっぽです。画像では見えませんが「花布(はなぎれ)」と呼ばれる表紙と本文の綴じ部分にある布地も、本の天側は赤、地側は茶色になっており、それぞれ猫の首輪とおしりの色を表わしています。

「もしも猫展」図録
歌川国芳のサービス精神を彷彿とさせるような、「観覧者に楽しんでもらおう」という工夫がいっぱいの展覧会。 猫好きの人もそうでない人も、ぜひお楽しみください。

展示風景
[ 取材・撮影・文:ぴよまるこ / 2022年7月1日 ]
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