ライブペインティングにより「祈り」というテーマを力強い表現をする美術家、小松美羽(1984-)。エネルギッシュな制作は、多くのファンから注目を集めています。
活動初期から奉納画、そして本展覧会のために制作した新作など、多くの作品で小松の作品世界を俯瞰する展覧会が、川崎市岡本太郎美術館で開催中です。

川崎市岡本太郎美術館「小松美羽展 岡本太郎に挑む―霊性とマンダラ」会場入口
小松は長野県生まれ。豊かな自然の中で生き物の生と死を間近に見てきたことから、独自の死生観が育まれてきたといいます。
女子美術大学短期大学部を卒業。在学中の銅版画作品《四十九日》が評価され、プロの道を切り開きました。
銅版画との出会いは幼少期の絵本から。初期作品では銅版画のほか墨絵やペン画など、モノクロームの線描を主軸にした作品が目立ちます。

1章「線描との出会い 死、自画像、エロティシズム」
2011年にニューヨークに渡り、現代アートの最前線で刺激を受けた小松。代表作《四十九日 》の銅板の原版を切断し、新たな表現方法を模索しはじめます。
故郷の縄文文化から学びを得た作品のほか、後のライブペイントに繋がる活動にも挑戦。作品には鮮やかな色彩が見られるようになり、表現の幅が拡がっていきました。

2章「色彩の獲得 大いなる『目』との邂逅」
小松は2015年にはタイ南部の洞窟で瞑想修行。精神世界の追求を、さらに深めて行きます。
アチャンと呼ばれる高僧の手解きにより、深い霊性的な体験に導かれた小松は、いわば「第三の目」の開眼ともいえる段階に入ります。
またこの時期からは、有田焼の職人と協同により立体作品も制作しはじめています。

3章「開かれた『第三の目』 存在の律動」
本展の大きな見どころが、真言宗立教開宗1200年を記念して小松が制作した奉納画《ネクストマンダラ ― 大調和》。掛軸として表装される前の状態で、初披露されました。
高野山と京都・東寺で描かれた 「ネクストマンダラ」シリーズは、これまでに小松が学んだ様々な宗教や神話のエッセンスがちりばめられています。

4章「霊性とマンダラ 『大調和の宇宙』」 小松美羽《ネクストマンダラ ― 大調和》2022年

4章「霊性とマンダラ 『大調和の宇宙』」 小松美羽《ネクストマンダラ ― 大調和》2022年
今回の会場は川崎市岡本太郎美術館です。小松は、岡本太郎の《明日の神話》から、「今でも絵が動いていて、神話が明日に続いている」という印象を受け取ったといいます。
小松は以前から、瞑想中に降りてきた抽象的な形をスケッチしています。最後の章にならぶ『エンテレヒー・シリーズ』は、そのひとつひとつをクローズアップした作品です。

5章「未来形の神話たち 抽象と象徴の冒険」
展覧会の開幕前日には、小松によるライブペインティングも実施されました。
炎天下の中、美術館横の母の塔前広場で、1時間にわたって大作をダイナミックに描き上げました。

ライブペインティングで制作した作品と、小松美羽
日本以上にアジアで注目を集め活躍する小松美羽。国内で画業を振り返る本格的な展覧会が公立美術館で開催されるのは初めてというのは、やや意外にも思えます。
これまでの軌跡を俯瞰した上で現在の作品を見ると、創作に対するエネルギーを改めて感じる事ができます。今後の活動にも期待したいと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年6月24日 ]