墨による抽象表現で独自の作品をつくり続けた美術家・篠田桃紅(1913-2021)。昨年、107歳で逝去した篠田の70年を超える制作活動の全貌を紹介する展覧会が、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中です。
東京オペラシティ アートギャラリー「篠田桃紅」展 会場入口
中国の大連に生まれた桃紅は、幼少の頃から書に親んだ後、独学で書を極めます。20代の頃に書家として初めての個展を銀座の鳩居堂にて開催しますが、伝統に縛られない自由な表現に「根なし草」と酷評をされます。
東京オペラシティ アートギャラリー「篠田桃紅」展 会場風景
30代後半から文字に囚われない抽象的な作品制作を行います。初期の作品には、徹底して文字と向き合うことで逆に文字の制約から離れた自由な「かたち」の創出がみられます。
篠田は、文字に“宇宙”を感じ取り、空間と時間、運動を構築する独自の感性を獲得していきました。
《結》 1955年 鍋屋バイテック会社蔵 / 《いろは》 1960年 鍋屋バイテック会社蔵
戦後まもない1956年、篠田は43歳の時に単身で渡米をします。ここで篠田は、太い線や面の構成による純粋な抽象表現に到達。篠田ならではの、強く骨太な造形が、確立されました。
東京オペラシティ アートギャラリー「篠田桃紅」展 会場風景
篠田はニューヨークを拠点として2年間、精力的に制作をおこないます。アメリア各地やパリで開催した個展で高く評価され、より一層活動の幅を広げるようになります。
東京オペラシティ アートギャラリー「篠田桃紅」展 会場風景
ひとつのモチーフを徹底して探求した篠田。それは「自由なようでいて、内的な制約はかえって強い」と語る抽象表現に対する厳しい意識の表れともとれます。会場には1970年代以降の、代表的な連作から重要作が並んでいます。
《私記》 1988年 公益財団法人岐阜現代美術財団蔵
建築とのコラボレーションに積極的に取り組んだ篠田。会議場やホテルのロビー、客室の壁画や襖絵、レリーフ、緞帳なども手掛け、空間との対話を試みた制作を行います。
《惜墨》 1991年 岐阜県美術館蔵
身近な自然や日々のくらしの森羅万象に感覚を研ぎ澄ませることを制作の糧として、晩年にいたるまで制作を続けてきた篠田。作品には、感性的な体験が凝縮された表現を感じられる“こころのかたち”が具現化されているようです。
《百》 2012年 鍋屋バイテック会社蔵
墨による新しい独自の表現を開拓した篠田の世界観を存分に感じることができる会場。リニューアルしたミュージアムショップ「Gallery 5」では、篠田桃紅作品のファイルや書籍も紹介をされています。ぜひ、手にとってみては。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年6月3日 ]