幕末医療ロマン「JIN-仁-」、日中近代史を壮大なスケールで描いた「龍-RON-」などで知られる漫画家、村上もとか(1951-)。
様々なジャンルに挑み続ける実力派マンガ家のデビュー50周年を記念し、貴重な原画や資料でその全貌を紹介する展覧会が、弥生美術館で開催中です。
弥生美術館「村上もとか展」入口前には花がいっぱい!
まずは、村上もとかの最大のヒット作である「JIN-仁-」から。現代の脳外科医、南方仁が幕末の江戸にタイムスリップするストーリー。大沢たかおさん主演のテレビドラマも大きな話題となりました。
遊女の平均寿命が驚くほど短かったことを知り、今であれば治せる病で亡くなっていったわれわれの祖先たちに思いをめぐらせた事が、連載のきっかけになりました。
「JIN-仁-」
村上さんは東京都世田谷区生まれ。高校時代に夢中になった同人誌活動を通じてマンガの描き方を学び、人気マンガ家・望月あきらのアシスタントに。
手塚治虫が主宰していた雑誌『COM』への投稿を重ねました。
「海のことば」 『COM』に初めて投稿した作品
『COM』は休刊になってしまいましたが、『週刊少年ジャンプ』に投稿先を変え、レース漫画「燃えて走れ!」でデビュー。その後も「タイヤもの」の漫画を次々に描きました。
「赤いペガサス」は、日本人F1ドライバーのケン・アカバの活躍を描くストーリー。連載当時、日本人にとってF1は遠い存在でしたが、実在の名ドライバーも登場する本作はファンの心を捉え、村上さんの出世作になりました。
「赤いペガサス」
「六三四の剣」は王道のスポーツ漫画。6月3日午後4時に剣道家夫妻の間に生まれた夏木六三四の成長を描き、テレビアニメ化されたヒット作です。
レースも剣道もリアルな描写が村上作品の特徴ですが、村上さん自身は剣道の経験はなく、車に至っては免許も持っていなかったほど。入念な取材が、その作品世界を支えているのです。
「六三四の剣」
ひとつの作品がヒットしても、その成功にとどまらず、さまざまなジャンルに挑戦するのも村上さんの特徴です。
「岳人列伝」は、クライマーたちと彼らを支えるシェルパ族を描いた作品。本格的山岳漫画として評価され、第6回講談社漫画賞少年部門を受賞しています。
(左から)「獣剣伝説」 / 「岳人伝説」
デビュー当時から村上さんが描きたかった題材が、満洲。子どもの頃に見た百科事典から満洲への憧れを持ち、いつか作品にしてみたいと考えていました。
その思いが実現した作品が「龍 ― RON ―」。日中をまたにかけて活躍する青年・龍を描いた、壮大なスケールの物語です。
「龍 ― RON ―」
「フイチン再見!」は、実在のマンガ家・上田トシコ(1917-2008)の生涯を描いたノンフィクション的な作品。
「フイチンさん」などの作品で少女マンガの黎明期を牽引した上田トシコを取材し、その話に魅せられた村上さんが漫画作品に。漫画史だけでなく、当時の社会状況も描き出した名作です。
(左から)「フイチン再見!」 / 「フイチンさん」(上田トシコ 画)
連載中の「侠医冬馬」は、幕末の医師が未知の感染症と闘う物語。2018年からの連載ですが、連載中に新型コロナが拡大、まさに時代を先取りした作品です。
進んでいると思われた現代医療ですが、SNSで流言がとびかい、ワクチン接種で揉めるなど、江戸時代の人々と変わっていない事に気づかされます。
「侠医冬馬」
弥生美術館では展覧会に際して村上もとかに密着取材。会場では村上さん自身による制作の裏側に迫った作品解説もあり、より深くお楽しみいただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年6月6日 ]