2022年2月2日、中之島美術館が開館しました。1983年に美術館の構想が発表され、1990年の準備室設立から約30年の時を経て、待望のオープンです。
黒塗りの外観から館内に入ると、1階にはカフェやレストラン、2階にチケットカウンターやミュージアムショップがあり、4・5階が展示室になっています。
大阪中之島美術館
こけら落としとなる開館記念「Hello! Super Collection 超コレクション展 ― 99のものがたり ― 」は、400点に及ぶ代表作を3章で構成。
第1章「Hello! Super Collectors」では、「山本發次郎コレクション」をはじめ「田中徳松コレクション」、「高畠アートコレクション」を紹介します。
第1章 第1節「コレクションの礎となった寄贈作品」山本發次郎コレクション
中之島美術館の構想は、稀代の蒐集家であった山本發次郎の遺族から作品の寄贈を受けたことが契機ともなっています。 入口を入ると佐伯祐三の画業を見渡すことができる8作品のほか、墨蹟や染織など山本の審美眼を感じさせる作品が並びます。
佐伯祐三《郵便配達夫》 1928年
田中徳松コレクションは、佐伯祐三作品の寄贈に感動した田中が佐伯に関係するユトリロやキスリング、マリ―・ローランサンなどエコール・ド・パリの作品を寄贈したものです。
高畠アートコレクション(左から)アンドレ・ドラン《驚き》1928年 / マリー・ローランサン 《プリンセス達》 1928年
美術館準備室の設置以来「大阪の美術」の解明も行われ、大阪の近代・現代作品がコレクションされるようになります。近代の大阪では女性の活躍もみられ、本展でも島成園をはじめとする女性日本画家の作品3点も展示されています。
第1章 第2節「大阪と関わりのある近代・現代美術 ― 近代絵画」
第二次世界大戦後、既存の枠組みや表現にとらわれない新たな美術のあり方を求めるグループが関西でも結成されました。従来とは異なる彫刻のあり方を追求した作品や記憶や時間を作品にとじこめた1970年代の作品も紹介します。
(左から)野村仁《Dryice》 1969年・2007年 / 今村輝久《作品》 1978年 / 福岡道雄《ピンクバルーン》 1967-68年
4階の最後の会場は、壁紙が黒く塗られた空間が広がっています。これは、具体美術協会が中之島を拠点とした展示施設「グタイピナコテカ」が黒壁だったことにちなんだものです。
具体美術協会は、戦後最も重要な前衛美術グループのひとつと言えます。展覧会ではリーダーの吉原治良と今井俊満の2人の作品が展示されていますが、10月には具体を紹介する大規模展「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」も開催予定です。
吉原治良 (左から)《White Circle on Red》1963年 / 《作品》1965年、《作品》 1965年
今井俊満(左から)《創生》 1968年 / 《New York (C)》1981年
5階の展示室、第2章は「Hello! Super Stars」。美術館が誇る膨大な近代・現代美術コレクションから代表的な作品を紹介します。
アメデオ・モディリアーニのほかにもサルバドール・ダリやルネ・マグリットら、シュルレアリスムの作家。 マーク・ロスコやジャン=ミシェル・バスキアらニューヨークのアートシーンを彩る作家総勢25名です。
(左から)ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 / ジャン(ハンス)・アルプ《植物》 1959年
高柳有紀子主任学芸員は「美術館の核は、館の建設でなくコレクションすること。これまで他館で目にしたことのある作品も登場します。それらすべて、ここがホームだという気持ちをこめて展示をした」と語るほど、何度も目にしたことのある作品が贅沢に展示されています。
第2章「Hello! Super Stars」 アルベルト・ジャコメッティ《鼻》 1947年
美術館では1992年以降“生活の中の美術”を掲げ、家具やデザイン商品も収蔵してきました。第3章「Hello! Super Visions」では、約200点のグラフィック作品と立体とのコラボレーションを見ることができます。
第3章「Hello! Super Visions」
3章のコーナーに入ると天井から吊るされた布ごしに椅子のシルエットを楽しむ演出が施されています。
第3章「Hello! Super Visions」(左)アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》 1893年
ヨーゼフ・ホフマンやコロマン・モーザーなど、希少なオリジナルコレクションも展示。また、リートフェルトの椅子やアルヴァ・アアルトの家具、ジョエ・コロンボの椅子など、産業化が進む中で芸術家が模索して生まれた家具もあります。
第3章「Hello! Super Visions」
グラフィック作品の多くは、2010年末に休館となったサントリー美術館[天保山]から寄贈された約18,000点ものポスターコレクションです。ロートレックやミュシャ、ボナールによるクラシック・ポスターやロシアアヴァンギャルドの前衛的なポスター、ヨゼフ・ミュラー=ブロックマンのポスターなど名だたる作品が並んでいます。。
第3章「Hello! Super Visions」 サントリーコレクション
最後の展示室には、倉俣史朗の家具が6点が出品。倉俣作品で最も有名な、赤いバラが散りばめられたアクリル樹脂の椅子《ミス・ブランチ》ももちろんですが、《引き出しの家具》も必見です。
倉俣史朗(左から)《illuminated Revolving Cabinet》 1973年・製造2008年 / 《ミス・ブランチ》 1988年・製造1989年
タイトルの“99のものがたり”には、未完の完成という意味が込められているそうです。作品1点1点にまつわる“ものがたり”を紹介することだけでなく、鑑賞者に見てもらうことで“100個目のものがたり”が完成します。
美術館前の広場 ヤノベケンジ《SHIP'S CAT (Muse)》 2021年
ミュージアムショップ「dot to dot today」
2階のミュージアムショップ「dot to dot today」のほか、3月から4月にかけてデンマーク発のインテリアショップ「HAY OSAKA」やフランス料理「lerestau K’art」、カフェレストラン「Musée KARATO」もオープンします。鑑賞後に立ち寄ってみては。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年1月29日 ]