広島県福山市にある臨済宗建仁寺派の寺院、神勝寺。禅の研鑽の場として海外にも門戸を開くなど積極的に活動していますが、建築・美術ファンからも熱い視線を集めています。
広島空港から車で約50分。名和晃平│Sandwichが設計したアートパビリオンと、国内有数の白隠コレクションを有する「神勝寺 禅と庭のミュージアム」をご紹介します。
総門
豊かな自然の中に伽藍や茶室、庭園などが点在する神勝寺。総門から入るとさっそく目に入るユニークな建物は、藤森照信氏が設計した寺務所「松堂」です。
藤森氏は禅のイメージに近い樹木として、松をセレクト。手曲げ銅板で葺いた岩山のような屋根の上に、赤松の木を植えました。ここには受付のほか、オリジナルグッズを販売するショップもあります。
松堂
ミュージアムショップ
松堂を過ぎて左手の石段を上ると多宝塔へ。さらに進んで吊り橋を渡ると、お目当ての《洸庭》が姿を現します。
《洸庭》は伝統的なこけら葺きを応用し、全体をさわらの木材で柔らかく包んだ舟型の建物で、石のランドスケープ上に浮かぶように建っています。近づくと木の曲面が頭上に広がり、独特の作品世界に包まれます。
《洸庭》
中根金作氏が作成した日本庭園側から見ると、宙に浮いた建物の姿がさらによく分かります。建物の下には石が敷かれており、海原を表現しています。
《洸庭》を設計したのは、名和晃平│Sandwich。禅宗の教えを、現代アートの領域から解釈・表現した作品です。《洸庭》周囲の植栽とランドスケープのデザイン監修は西畠清順氏とそら植物園によるものです。
《洸庭》
石の海を抜けて、ゆるやかなスロープを上がり、小さな入口から舟の中へ。時間制で、名和晃平氏によるインスタレーション作品が鑑賞できます。
この作品は、名和氏とビジュアルデザインスタジオ「WOW」、音楽家の原摩利彦氏の協業により制作されました。
暗がりに海原が広がり、波間にかすかな光が反射する光景。誕生と消滅、時間と空間など、さまざまな事が脳裏に浮かび、自己の内面と向き合う濃密な時間を過ごす体験となります。
造形としてのインパクトが強いため建物がクローズアップされがちですが、このインスタレーション作品がまさに必見の超傑作。自信を持っておすすめします。
《洸庭》
境内の一番奥まで進むと長い石段があり、上った先が神勝寺の本堂「無明院」です。
本堂の前には、3つの枯山水庭園「無明の庭」「阿弥陀三尊の庭」「羅漢の庭」。これらは中根史郎氏の父、中根金作氏による作庭です。
門をくぐって神勝寺の本堂「無明院」へ
神勝寺のもうひとつの見ものである白隠コレクションは、無明院に隣接する「荘厳堂」で展示されています。
江戸時代中期に臨済宗を中興させた、白隠。神勝寺は約200点の白隠コレクションを有しており、随時展示替えを行いながら、年間を通じて紹介しています。
「荘厳堂」に展示されている白隠コレクション
神勝寺うどんを提供する茶房「五観堂」、庭園「賞心庭」、ふたつの茶室「一来亭」「秀路軒」など、他にも見どころはいくつもありますが、ここでは「浴室」をご紹介しましょう。
浴室もまた、修験道場に必須とされる七堂伽藍のひとつで、心と体の垢を落とすという重要な役割があります。木製の浴槽を備えた内湯からは、見事な景色が味わえます。
「浴室」
多様な角度から禅を感じて理解する事ができる、唯一無二のミュージアム。2019年10月からは、オーディオガイドを聴きながら境内をめぐる「音声ガイドで体験する、7つの内面旅行」もスタートしました。
一泊二日の禅修行から予約不要の写経まで、各種の体験プログラムは公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年11月28日 ]