動物と違ってじっとしているため、ともすれば地味に感じられる植物。ただ、最先端の科学研究では、これまでの想像を超える、植物のアクティブな生態が明らかになってきました。
標本や模型、映像、インスタレーションなどで、植物の驚きの実像や魅力に迫る展覧会が、国立科学博物館で始まりました。
国立科学博物館「植物 地球を支える仲間たち」会場
展覧会は7章構成、第1章は植物の感覚についての解説です。「植物の感覚」というと奇妙に感じますが、人間や動物に五感があるように、植物も光の方向や寒暖の差などを感知する感覚があります。
食料を探すために歩く必要がない代わりに、環境の変化に耐えなければならないので、鋭い感覚を身につけたのです。
会場に入るとすぐ目に入るのは、チューリップと朝顔の大きな模型。見慣れた植物で、がく片、花弁、茎、葉などのつくりを比較します。
第1章「植物という生き方」
第2章では、地球上に生育している多種多様な植物を紹介。とてつもなく大きな植物が登場します。
展覧会全体の目玉といえるのが、ショクダイオオコンニャク。実寸大模型は高さ2.72メートルで、2014年に国立科学博物館筑波実験植物園(つくば市)で開花したものをかたどりました。
開花すると上部からもうもうと湯気が出て、生ゴミのような猛烈な臭気を放出。腐った肉を食べるシデムシをおびき寄せて受粉させます。
第2会場に向かう通路では、再現されたにおいを嗅ぐことも可能。勇気がある方は、ぜひ試してみてください。
第2章「地球にはどんな植物が存在しているか?」
第3章は「植物らしさ」について。一般の人がイメージする植物は、根、茎、葉、花など。姿や形は人間や動物とはまったく違いますが、形成の仕組みは似ているところもたくさんあります。
花を形づくる遺伝子の法則が「ABCモデル」。どの遺伝子がどのような形につながるのか、ポップなリズムで紹介する楽しいコーナーもあります。
遺伝子組み換えの技術で作られたのが「青いキク」です。キクに青紫色のカンパニュラの遺伝子を導入して紫色にし、さらに青いチョウマメの遺伝子で、念願の「青いキク」が誕生しました。
第3章「植物の形と成長」
第4章では古代の植物の世界を紹介。約5億年程前に、淡水から陸上に進出して誕生した植物。単純なものから、やがて太く大きくなるものや種子を作るものが現れ、地球全体に大きく繁栄していきました。
この章の注目が、目に見える大きさの化石としては世界最古となる植物化石「クックソニア・バランデイ」。化石そのものは100年ほど前に見つかったものですが、近年になって、この植物が約4億3200万年前のものである事が判明しました。展覧会では世界初公開です。
第4章「植物はどのように進化してきたか?」
第5章で紹介されているのが、巨大なハエトリソウとモウセンゴケ。感覚毛に、30秒以内に2回触ると葉が閉じるハエトリソウ。1回では閉じないので、30秒間は最初の刺激を覚えているのです。
モウセンゴケは粘着性のある消化液で獲物を捕獲。栄養を感じると触毛は動き出し、半日で体の芯まで溶かしてしまいます。
さらに進むとトリカブトも。アコニチンという強力な毒を持ち、葉に毒を含むことで動物などに食べられるのを防いでいます。
第5章「本当は怖い植物たち」
第6章は光合成について。太陽エネルギーを有機物に変える能力、すなわち光合成ができるのは植物だけ。地球上の生命は、植物が行う光合成に支えられているのです。
太陽から降り注ぐ光のエネルギーは膨大で、1時間分で人類のエネルギー消費の1年分をまかなえるほど。光のエネルギーのうち約0.1%が、植物の光合成によって有機物に変えられます。
楽しい展示が、参加型インスタレーション展示「光合成 FACTORY」。4人まで参加可能、みんなで光合成を進めましょう!
第6章「生命の源、光合成」
第2展示室に移って、最後の第7章では植物研究の世界を紹介。若い研究者へのインタビューで、研究者になろうとしたきっかけや、研究で嬉しかった事などを回答いただきました。
第7章「目指せ 植物研究者!」
知られざる植物の世界を紹介する展覧会。こどもはもちろん、大人もびっくりするような解説も数多くありました。
入場には公式チケットサイトから日時指定予約が必要です。ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年7月9日 ]