奈良県にある『松伯美術館』は上村松園・松篁・淳之氏 三代にわたる画業を紹介し日本画の美を発信しています。
故佐伯勇近畿日本鉄道株式会社名誉会長の旧邸敷地に建築され、季節の移ろいを感じることができる素敵な美術館です。今日は上村淳之米寿記念の企画展に足を運んでみました。

松伯美術館外観
上村家三代は多くのファンをもつ日本画の画家一家です。

上村家三代画伯
それぞれ得意な題材で少しづつ違った個性が見て取れる作品は私達を魅了してくれます。祖母・松園、父・松篁の情熱を傍で感じた上村淳之氏(うえむらあつし 1933~ )は幼少の頃から作画はもちろん、生物の観察を好み、現在でもアトリエで鳥の飼育をしながら早朝の禽舎巡回を日課とするほどな鳥好きとのこと。
今回のテーマとされる水辺の鳥たちは優しい眼差しと愛情を注がれて描かれているのがよくわかります。88歳米寿を迎え、更にバイタリティ溢れる創作活動はまだまだ続きます。
細長い嘴で餌を啄む姿やヒナを連れて一家団欒の親子鳥、月明かりに佇む鶴たちなど・・静かな時間を感じます。展覧会のメインビジュアルに抜擢された《啼く》は女王の風格!ウェデングドレスを身に纏ったような純白の孔雀が柏の木に宿り、まあるい目が見上げるのは移ろう空の雲でしょうか?

《花の水辺Ⅰ・Ⅱ》上村淳之2007年

《四季花鳥図(春・秋)》上村淳之平成10年

《啼く》上村淳之平成3年京都府蔵
季節の風景を取り合わせて一枚の絵や屏風にした四季花鳥図には、植物と鳥たちが絶妙に配置され会話が聞こえてくるようです。大阪の新歌舞伎座の緞帳の原画もありました。

大阪新歌舞伎座緞帳原画《四季花鳥図》上村淳之 平成22年
館内には上村家の生活を切り取った写真の部屋もありました。決して平穏とは言えなっかった時代を背景にしつつ、一家団欒の幸せを求めた瞬間を感じることができました。

一家団欒の情景(写真)
上村松園(うえむらしょうえん1875~1949)は京都の町なかで生まれ、その風情風俗を描きました。祇園屏風祭などのスケッチで腕を磨き、女性として初の文化勲章を受章します。
“美人画の巨匠”と言われ、色香を感じるしぐさや表情、着物や髪飾りも丁寧で、何といってもスタイル抜群の美人が大勢です!淳之さんを抱く下絵や、使われていた画道具も見ることができ、親近感がグッと高まります。

《唐美人》上村松園大正13年

(下絵 母子)上村松園昭和9年

松園の使用した道具類
上村松篁(うえむらしょうこう1902~2001)は早くから画展に入選するなど活躍の場が広くありました。金魚や小鳥を愛し様々な表情をデッサンする中、すっきりとした表現にまとめられた作品は、花鳥画家としての名声と足跡を残しています。
海外など旅先で出会ったのでしょうか、日本画には少し大胆な明るい色や大きな作品も多く、季節の花の作品も鑑賞できます。

《熱帯花鳥》上村松篁 昭和38年

《八仙花》上村松篁 昭和25年
ミュージアムショップには代表作《序の舞》《花がたみ》などのポストカードも並び、日本画への興味を誘います。天井を高くし、要所に自然光を取り入れており、吹抜け型の展示室では2階からも1階の作品を見ることができます。敷地内には旧佐伯邸や整った庭園、村野藤吾設計の茶室(一般公開なし)も残る和の空間でした。

ミュージアムショップ

旧佐伯邸
奈良・近鉄学園前は閑静な住宅街ですがアートの街でもあります。 駅から北側に行くと「松伯美術館」、南側へ行くと「大和文華館」があります。どちらも緑豊かな庭に包まれ、池のほとりに佇むアートスポットです。素敵な1日を過ごすにはちょうど良い距離感です。
この日はあいにくの小雨ぱらつく日でしたが、駅の南側すぐにある「食房エスト」さんでランチをとって、さあ次の「大和文華館」へ向かいます。

食房エストでのおいしいランチ
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年5月21日 ]
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