※緊急事態宣言の延長にともない、特別陳列「北斎ー富士山と東海道ー」は終了となりました。
葛飾北斎(1760-1849)は多くを語る必要のないほどの有名人です。その北斎が好んで描いた2大テーマは、“富士山”と“東海道”でしょう。このテーマを一度に鑑賞できる展覧会が大阪府南部にある『和泉市久保惣記念美術館』の特別陳列『北斎 富士山と東海道』で、全出展作品が和泉市久保惣記念美術館の所蔵品です。

和泉市久保惣記念美術館 外観
北斎は、70年の絵師人生で約3万点もの作品を描いたといわれ、錦絵、浮世絵、美人大首絵、絵馬、肉筆画など手法はバラエティ豊かです。版画の《冨嶽三十六景》や《富嶽百景》はあまりにも有名で、富士山好きな北斎の飽くなきテーマは大人気のシリーズとなりました。
江戸の絵師にはまだ写生風景画が少ない中、見たものを記憶し、イメージで動かしながら配置される富士山や人々、そして背景となる海、山、滝、天候などがうまく一場面を作り出しています。デフォルメの妙で絵が動き出すように見えてきませんか?
《冨嶽三十六景》は大判サイズで迫力があり、全46図のうち今回は45図が前期後期入替で鑑賞できます。これに描き足らず更に3冊にまとめられた《富嶽百景》は単色摺りですが筆使いがよくわかります。本物をまとめて見る機会はなかなかありません。
続いての東海道シリーズは広重より先に制作された浮世絵で、各宿場の名所、名物が描かれています。手札版や小判(大判の1/4サイズ)と小さめですが北斎の技量がグッと濃縮されているようです。
こちらも出展数が多く、展示しきれないようなボリュームで楽しめます。ぜ~んぶ北斎です!北斎と一緒に名所めぐりの富士見と参りましょう。

冨嶽三十六景 山下白雨 大判 版元:西村屋与八 天保2年頃 前期展示

冨嶽三十六景 凱風快晴 大判 版元:西村屋与八 天保2年頃 後期展示

冨嶽三十六景 甲州石班沢 大判 版元:西村屋与八 天保2年頃 前期展示

春興五十三駄之内 日本橋 小判 版元:不明 享和4年 全期間展示

春興五十三駄之内 吉田 小判 版元:不明 享和4年 全期間展示

富嶽百景 海上の不二 小判 全期間展示
葛飾北斎は生涯で頻繁に画号を変え、93回の転居をしましたがほぼ現在の墨田区周辺で過ごしました。描くことに没頭した人生は世界への影響も大きく、1998年の雑誌「LIFE」では、~人類に影響を与えた100人~に日本よりただ一人選ばれました。
中でも『北斎漫画』はアニメの始まりといわれ、この「漫画」という北斎による造語は今や世界に通用する日本語となりました。文化的背景を越えて受け入れられた巨匠です。
北斎ブルーといわれる“藍”色や、はじける波の躍動感、富士山の視点など科学的研究も盛んで、江戸の絵師の驚くべき知識と手法はまだまだ夢を広げてくれます。
《冨嶽三十六景》の版元は西村屋与八です。鶴屋喜右衛門や蔦屋重三郎と並ぶ大きな版元「永寿堂」でした。鳥居清長の作品も多く、富士講や狂歌のグループとのかかわりも 見受けられます。

北斎の代表作が所狭しと並びます

色鮮やかな摺りです

東海道名所一覧 大々判 版元:嵩山房・千鐘房・衆星閣 文政元年 全期間展示
「和泉市久保惣記念美術館」は名家・久保家のコレクションを展示し、国宝2件、重要文化財29件を含む11,000件を超える幅広い分野の収蔵を誇ります。
大阪泉州地域で明治より100年にわたり綿業を営み、海外との貿易なども盛んな中、久保惣株式会社が収集してきた多数の東洋古美術品を、廃業時に土地建物と共に市に寄付し、旧本宅跡地に美術館として設立されました。その後も久保家は文化振興に注力され、私たちは今その所蔵品を鑑賞することができます。
まず新館側のエントランスを入るとかわいい庭園が迎えてくれます。ジベルニーのモネの池?と思わせる風景です。実は新館にはモネやルノワールなど西洋絵画をはじめロダン彫刻から青銅器まで優良コレクションも並び、ちょっと得した気分になります。
庭園に沿って本館を目指して進むと、茶室や市民ギャラリー、音楽ホールも備える一大文化センターのようで、建物も稼業の名残をみせる由緒を感じます。
地域ミュージアムとの連携や子供の絵画鑑賞、デジタル配信にも力をいれていて来年の設立40年に向けて準備する上質の美術館でした。

エントランスを抜けると あれ?モネの池?

新緑の庭園を見ながら通路に沿って本館へ

西洋絵画のコレクションも秀逸
2020年から採用されている“北斎柄“の新しいパスポートを持って、早く海外旅行を楽しみたいものだわぁ・・などと考えながら駅の喫茶店で余韻を楽しみました。

名画の余韻は「幸せのパンケーキ」と共に
もより駅は泉北高速鉄道の和泉中央駅ですが、少しバスの便数が少ないのでタクシー利用がおすすめです。(所要約10分)
今回の北斎決定版のような特別陳列は見応え十分でしたが、取材後すぐ緊急事態宣言が発出されてしまい現在臨時休館中。解除が本当に待ち遠しい限りです。
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年4月22日 ]
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