ユニクロや楽天グループのグローバルブランド戦略、セブン・イレブン・ジャパン、本田技研工業「N」シリーズのブランディングプロジェクトなど、多様な分野で活躍するクリエイティブディレクター佐藤可士和(1965-)。
約30年にわたる活動の軌跡を紹介する過去最大規模の個展が、佐藤がシンボルマークを手がけた国立新美術館で開催中です。
会場の国立新美術館
展覧会は全体の空間構成をはじめ、個々の展示物の見せ方、ショップに並ぶグッズなど、全てを佐藤自身がディレクション。いわば展覧会がまるごと佐藤可士和の作品ともいえる構成です。
会場は7つのセクションで、まず「THE SPACE WITHIN」から。冒頭の「宇宙」は、佐藤が小学5年生の時につくったコラージュ作品。子どもの頃からマンガの表紙やロゴ、標識などのマークが好きで、それらの中に一つの宇宙を見ていた、といいます。
「6 ICONS」は多摩美術大学を経て1989年の博報堂入社当時、Macintosh IIciを用いて初めてコンピュータでデザインした作品です。
「THE SPACE WITHIN」 (右手前)《宇宙》1975年
続く「ADVERTISING AND BEYOND」には、ダイナミックな広告がずらり。SMAPのCDアルバム、ステップワゴン、携帯電話「FOMA N702iD」など、1990年代後半から2000年代にかけて佐藤が手がけた主要プロジェクトから、ビルボードや連貼りポスターなど屋外広告の傑作のほか、広告キャンペーンの一環として展開されたグッズやプロダクト、パッケージなどが並びます。
佐藤は1989年に博報堂に入社し、2000年に独立してクリエイティブスタジオ「SAMURAI」を設立、活動の場を広げていきました。
佐藤は、従来の広告展開の主軸だった4大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)にとらわれず、人々の目に触れるもの全てがメディアとなる可能性を提示。その画期的なデザインワークは、広告戦略そのものの刷新に繋がっていきました。
「ADVERTISING AND BEYOND」
次の「THE LOGO」は、さらに驚きの展示。楽天、ユニクロ、T-POINTなど、日々慣れ親しんでいる数々のロゴが巨大化され、壮大なインスタレーション空間になっています。
佐藤は企業、教育機関、文化施設、病院、地域産業、服飾ブランドなど、多種多様な分野でクリエイティブディレクションを手がけるなかで、多くのロゴを制作しました。
ロゴはプロダクト、名刺、ショッピングバッグ、ホームページなどさまざまな媒体で展開されるため、サイズや質感が変わっても一貫したイメージを伝えることが必要です。
佐藤のロゴは、一度目にしたら忘れがたい簡潔明瞭な造形と色彩が特徴的です。巨大ロゴはいずれも、企業・組織の理念や活動分野を示唆するような素材で制作されています。
「THE LOGO」
さまざまな媒体で展開される佐藤のプロジェクトですが、全ての発想のベースにあるのがグラフィックデザインです。
「THE POWER OF GRAPHIC DESIGN」のセクションでは、選りすぐりのポスターと装丁デザインの傑作を紹介。「ISSEY MIYAKE BY NAOKI TAKIZAWA」や「グラフィックトライアル」など、シンプルながら鮮烈な印象を放ちます。
「THE POWER OF GRAPHIC DESIGN」
佐藤の活動の幅を実感できるのが「ICONIC BRANDING PROJECTS」のセクション。企業、教育機関、文化施設、病院、地域産業、伝統文化、アパレルブランドなど、数々のプロジェクトが一挙に紹介されています。
佐藤が一貫して追求してきた戦略が、目に触れるあらゆるものをメディアととらえ、デザインを通して「アイコン」にすること。ロゴをはじめ、商品、店舗やオフィスなどの空間、建築物、さらにそれらが存在する街の風景さえも、佐藤はコンセプトを伝達するアイコンへと変貌させ、社会にコミュニケーションさせていきました。
「ICONIC BRANDING PROJECTS」
佐藤自身の「アイコン」とも言うべき二つのアートワークが「LINES」と「FLOW」。「LINES & FLOW」のセクションでは、アーティストとしての佐藤の活動を紹介します。
クリアな赤・青・白の直線で構成される「LINES」。本展のキービジュアルでもある3色のパターンは、無限に組み替える事が可能です。今回はムービー、有田焼の陶板作品と組皿、ステンレススチールを用いた大型作品が紹介されています。
一方の「FLOW」は、大きな和紙に描かれた有機的なドローイングのシリーズ。青の岩絵具をたっぷりと含ませた大筆を、紙にいっさい触れることなく、動力と重力だけで描いた作品です。
「LINES & FLOW」
佐藤の代表作の一つが、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」。会場最後には「UT STORE」の国立新美術館バージョンである「UT STORE @ THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO」を設置。「UT」のプロジェクトそのものを一つの作品として提示しています。
壁面に並ぶ27種類のTシャツは、展覧会のためにデザインされたUT。それぞれの特別パッケージUT BOXに入れて販売されます。S・M・L・XLの4サイズ、1,650円です。
「UT STORE @ THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO」
佐藤の肩書でもある「クリエイティブディレクター」の概念は、時代とともに大きく変わってきました。アメリカの広告業界で1950年代に誕生、日本では60年代から知られるようになりましたが、当初は組織における役職のニュアンスが強く、職業として認識されるようになったのはもっと後の事です。
日本では2000年代から、広告の枠を超えて企業や商品のブランディングに関わるクリエイティブディレクターが登場しますが、その代表といえるのが佐藤可士和です。佐藤の活動の領域は広がり続けているので、この展覧会も「現時点でのすべて」といえるかもしれません。大空間をものともしない圧倒的なクリエイティビティ、ぜひ会場でお楽しみください。