漫画の起源は諸説あるものの、本展では江戸時代に描かれた戯画を漫画表現のスタートと位置づけています。ちなみに、戯画とはおかしみのある絵の総称です。
本展は全3章で、日本における漫画の変遷、約230年をたどります。
第1章は、江戸時代中期以降の大衆向けに量産された戯画本、戯画浮世絵が並びます。庶民の日常から、地震や疫病などの災害、幕末の動乱まで様々な対象が描かれました。

左)歌川広重(初代)「即興かけぼしづくし」(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵 右)歌川国利「有が多気御代の蔭絵」(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵

作者不詳「死者におびえる鯰の親子」(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
安政大地震のときには、鯰絵と呼ばれるものが流行りました。地震を起こした鯰が死者の亡霊に怯える様子はどこか憎めませんが、誰かのせいにしたい気持ちが広く受け入れられたのでしょう。

作者不詳「鳥羽画巻物之内屁合戦」(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
袋にためた屁で吹っ飛ぶ人々や鼻をつまむ人などは可笑しみがありますが、倒幕派vs佐幕派を暗示しているそうです。当時の人々が、絵の裏に隠された意味を読み取って盛り上がる様が目に浮かびます。
また、現代で当たり前となっている漫画表現も既に見られます。

作者不詳「諸職吾沢銭」(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
「吹き出し」の手法が既に取り入れられ、口から大量に言葉が出ています。

葛飾北斎『北斎漫画』十編 芸競べ図(前期)すみだ北斎美術館蔵
4コマ漫画のようにオチまであるとは、さすが北斎です。
第2章は、明治・大正時代の諷刺漫画雑誌と、その過渡期に描かれた戯画錦絵です。

河鍋暁斎「暁斎楽絵」第三号 化々学校(前期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
文明開化に乗り遅れまいとする妖怪たちも、諷刺の一環です。

チャールズ・ワーグマン『THE JAPAN PUNCH』1883年5月号 (全期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
「ポンチ」という言葉のきっかけとなった貴重書もありました。このように海外の影響を受け、時局諷刺画と文章の漫画雑誌が作られるようになります。

『大阪パック』第7年第23号 輝文館(全期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
第3章は、昭和初期から終戦まで。ストーリー性のある長編漫画が増えていきます。

平井房人『家庭報国 思ひつき夫人』全3集(全期)京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
日中戦争下、倹約のために家庭でできるアイデア集のような漫画は、ヒットして映画化までされたそうです。今と同じエンターテイメントの流れが既にあったことに驚きます。
本展では、漫画の歴史をたどりながら、教科書には載らない日本の別の顔も垣間見れました。
これまでに見てきた浮世絵とは異なり、戯画の方がより人間味を感じました。反骨心あり、ユーモアあり、爆発的に流行して規制がかかる様が、さながらお江戸版SNSといった風に感じました。
[ 取材・撮影・文:新井幸代 / 2020年11月24日 ]
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