皇居のお濠に面した帝劇ビルの9階で、半世紀にわたって美術ファンを楽しませてきた
出光美術館。数多くの名品を所蔵する
出光美術館だけあり、館蔵品のみで構成される50周年記念展も、三部に分けての開催となりました。
現在開催されている第一部は「やまと絵」がテーマです。平安時代に国風文化が広まる中で発展した、やまと絵。四季の山景や樹木、花鳥などを繊細な感性で典雅に描き、日本人が持つ美意識の原点といえます。
冒頭の展示室は、屏風絵から。室町時代に描かれた重要文化財《四季花木図屏風》は、右隻右端に梅、左隻の左上には雪を冠した松竹。四季のうつろいをひとつの屏風の中で表現しています。
画面いっぱいに桜と紅葉を両隻に配したのは《吉野龍田図屏風》。吉野の桜と龍田の紅葉(楓)の対比が鮮やかな屏風は、ちょうど根津美術館でも展示中。根津は江戸時代のものですが、こちらは桃山時代の作品です。
会場前半では屏風絵を紹介「美の祝典」の目玉は、国宝《伴大納言絵巻》。平安時代前期(866年・貞観8年)に起こった応天門の変を題材に描いた絵巻で、三部の会期で上・中・下の3巻が1巻ずつ紹介されます。
会場構成も独特の雰囲気。登場人物の関係やストーリー、絵巻の見どころなどが丁寧に解説された後に、いよいよ登場です。
展示中の上巻は、放火で応天門が炎上し、清和天皇に太政大臣が拝謁するまで。群衆の描写が特徴的です。
会場では全場面が一望できますが、本来の絵巻は巻き取りながら鑑賞するもの。この上巻も左から順に見ると、朱雀門に駆け入る人々と、ただ事ではない気配。門をくぐると群衆が見上げる上方には、すでに火の粉が。徐々に黒煙が広がり…と、ダイナミックに進んでいきます。ぜひ「巻き取りながら鑑賞する」を意識してご覧ください。
国宝《伴大納言絵巻》(上巻)仏教絵画の優品も数多く展示されています。奈良時代に制作され、その後の絵巻物の原点ともいえる重要文化財《絵因果経》、冥界で死者を裁く10人の王と壮絶な地獄が描かれた《十王地獄図》など、見応えたっぷりです。
7年間かけて修復されていた重要文化財《真言八祖行状図》は、修復後初お披露目。雄大な山水を背景に、密教を伝えた8人の祖師の行状が描かれた説話画です。
他にも鎌倉時代の歌仙絵や、慶派の仏像なども含めて、会場の最後まで豪華絢爛。第一部だけでも国宝1点、重要文化財11点、重要美術品3点という贅沢なラインナップです。
仏画も多彩です公式サイトを含めて大きな案内はありませんが、第一部の期間中に当日有料入館券で観覧した人を対象に、優待割引券(次回以降使える500円引き券)が配布中。第一部に続いて第二部(または第三部)を見る場合、一般なら500円で観覧できます(2017年3月26日までの期間中、1名1回有効。「美の祝典Ⅰ」のリピートの利用も可)。
伴大納言絵巻は子どもの喧嘩から真犯人の発覚(中巻)、伴大納言の失脚と連行(下巻)へと進みます。「美の祝典」第二部・第三部も、この項でご紹介する予定です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年4月18日 ]■出光美術館 美の祝典 に関するツイート