印刷技術のなかった中世ヨーロッパにおいて、写本は人々の信仰を支え、知の伝達を担う主要な媒体でした。羊や子牛などの動物の皮を薄く加工して作った紙に人の手でテキストを筆写し、膨大な時間と労力をかけて制作される写本は、ときに非常な贅沢品となりました。華やかな彩飾が施され、一級の美術作品へと昇華を遂げている例も珍しくありません。
当館では2015年度に、筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史氏より、写本リーフ(本から切り離された一枚一枚の紙葉)を中心とするコレクションを一括でご寄贈いただきました。その後も2020年にかけて、内藤氏ご友人の長沼昭夫氏からも支援を賜りつつ、新たに26点の写本リーフを所蔵品に加えています。
当館は、2019-20年度に三期にわたり開催した小企画展で、内藤コレクションを紹介してまいりました。しかし、コロナ禍のさなかでもあったため、それらは小規模なものにとどまったと言わざるを得ません。こうした事情をふまえて、改めて内藤コレクションの作品の大多数を一堂に展示し、皆様にご覧いただくべく企画されたのが本展です。また当館では、コレクションの寄贈を受けて以来、国内外の専門家の協力を仰いで個々の作品の調査を進めてきました。本展はその成果をお披露目する機会ともなります。
本展は、内藤コレクションを中心に、国内の大学図書館のご所蔵品も若干数加えた約150点より構成され、聖書や詩編集、時祷書、聖歌集など中世から近世初頭にかけて普及した写本の役割や装飾の特徴を見ていきます。書物の機能と結びつき、文字と絵が一体となった彩飾芸術の美、「中世の小宇宙」をご堪能いただければ幸いです。
(公式サイトより)