サイ トゥオンブリー(1928-2011)は、高松宮殿下記念世界文化賞やヴェニス ビエンナーレ金獅子賞など、数々の受賞歴を誇る20世紀を代表するアーティストの一人です。このたび、ハラ ミュージアム アークの本館である原美術館(東京都品川区)では、紙の作品(ドローイング、モノタイプ)に焦点を当て、50年にわたる画業を回顧する日本の美術館で初の個展が開催されます。
当館においては、特別展示室「觀海庵」(設計 磯崎新)にて、トゥオンブリー作品と東洋古美術作品(原六郎コレクション)を対置する形で特別企画を行うこととなりました。床の間と違い棚を備えた書院造を引用した日本的な展示空間が、東西の美の出会いの場となります。
《子供の落書き》あるいは《描画された詩》とも形容されるトゥオンブリー作品は、即興性と激情性に満ちています。画面で自在に戯れる線、記号のような形態、そして時折り書き込まれる文字や言葉は、独自の絵画空間を作り上げています。東洋絵画の毛筆による線描や空間の表現と対比すると、また異なる印象を生み出すかもしれません。墨の濃淡と調子でとらえる形態、対象を表情豊かに描き分ける墨線、細密な描写やユニークな空間の表現などが、《手で描く/書く》という表現行為に全精力を傾けるトゥオンブリーの作品のなかに、文化圏や近世と現代という時代を超えた絵画的表現の醍醐味をご堪能いただけることでしょう。