人類史上に輝く繁栄を誇った古代ローマ。なかでも日本人が深い関心をよせるもののひとつがテルマエです。テルマエは古代ローマの高度な建築・土木技術の証であると同時に、彼らの豊かな暮らしの象徴として捉えられています。それはひとえに、日本で公衆浴場がこよなく愛されているからに他なりません。『ローマ十四区総覧』(Curiosum urbis RomaeとNotitia urbis Romae)によれば、4世紀のローマ市にはテルマエが11、小規模なバルネウム(pl. balnea)が856〜951もあったといいますが、日本では家庭内の風呂が当たり前になった現在でも、東京だけで約700軒の公衆浴場が存在します。日本はまた、イタリアと同様に火山国でもあり、天然の温泉が多く湧出します。各地の温泉は観光地としても人気があり、今も昔も多くの旅行客や湯治客を集めています。
こうした親近感をさらに広めたのが、イタリア在住のヤマザキマリ氏による漫画『テルマエ・ロマエ』(2008-2013年)でした。この漫画はハドリアヌス時代のローマ人建築家ルシウスが、古代ローマと現代日本を往還してその類似と相違に驚愕する姿を描いたコメディで、日本で累計900万部を売上げ、イタリア語を含む8カ国語に翻訳されました。氏はこの作品によって、日本人漫画家として初めて、イタリア共和国から勲章コンメンダトーレ章を受章しています。
本展では、同漫画の主人公ルシウスが案内人として、解説パネル等に登場します。日本における古代ローマ研究の第一人者である青柳正規氏、芳賀京子氏の監修と、ヤマザキマリ氏のご協力により、鑑賞者が古代ローマをより身近に感じていただくことができるでしょう。
また本展の開催館には、国内有数の温泉地のある地域が含まれており、それぞれの地域には、地方色豊かな温泉の歴史が残されています。加えて日本では江戸時代、古代ローマのように市民が通う公衆浴場が広まりました。温泉そして公衆浴場にも触れ、日本の浴場文化とその歴史もあわせてご紹介します。『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが、浴場をとおして日本とローマを往復したように、それぞれの浴場文化を体感することのできる機会となるでしょう。