自主的なリサーチプロジェクトによって生まれる独自の視点から新しいデザインのかたちを発信し続ける、デザイナーの吉泉 聡をディレクター迎えた展覧会。
普段の生活の中で接する「もの」のほとんどは、人によってデザインがなされています。ディレクターの吉泉は、これら「もの」がつくられる過程にはこの世に存在するありとあらゆる「マテリアル」が「素材」として意味づけされるプロセスが含まれていると述べています。
つまり、特定の意味を持たなかった「マテリアル」が、人や生物との関わりの中で「もの」へとつながる意味が付与され「素材」となるのです。「マテリアル」と「素材」は本来同義ですが、本展では先述のように使い分けて考えていきます。
私たちがものについて考えるときに、誰かが意味付けをした素材について意識を巡らすことがあったとしても、マテリアルにまで立ち戻ることはほとんどありません。合目的的に「座りやすそうな木製の椅子」と捉えることはあっても、原初的な感覚として「生命感のある木」という感覚まで立ち戻って思いを巡らせることはまれです。本来、意味とはマテリアルとの対話から立ち現れるものであったはずです。私たちは有史以前からマテリアルと共に暮らし、密接な対話を通してものをつくり、暮らしを営んできました。しかし現代社会においては、一部のつくり手がデザインを担うことで、多くの人にとってマテリアルとのつながりは「つくる/つかう」という視点から断ち切られています。
また、マテリアルとの対話とは、マテリアルを管理することとは異なります。つくり手の思ったとおりの形や機能をデザインすること、つまり、つくり手の思ったとおりの素材とすることが、必ずしも人とマテリアルとのよい関わり方だとは言えないでしょう。むしろ、さまざまな環境問題が提起される現代だからこそ、一度素材の意味を剥ぎ取り、マテリアルとの原初的な感覚のやり取りから、その背後にある自然環境や社会環境の持続可能性まで含めて、身体的で深い対話がなされるべきだと考えられます。
本展覧会では、企画協力に芸術人類学者の石倉敏明、バイオミメティクスデザイナーの亀井 潤を迎え、これまでに人間が営んできた自然との多様な関わり方をアートやデザイン、人類学の観点から紐解くと同時に、最先端のマテリアルサイエンスが我々の感覚をどのようにアップデートしてくれるのかも紹介していきます。
私たちとマテリアルのつながりを、地球をめぐる果てしなく広大な物語から読み解き、再発見を試みる本展がマテリアルの織り成す新しい世界を感じるきっかけとなれば幸いです。
それらの問題に対して「マテリアル」の視点から思考を促す展覧会が開催中です。。
ものとは何か、ものを作るとはどういうことか。会場を見て回れば自分の中から問いが生まれて、好奇心が芽生えるでしょう。