フランス北東部、シャンパンの本場・シャンパーニュ地方の中心地ランスは、歴代フランス国王の戴冠式が行われたノートルダム大聖堂を擁する由緒ある地です。
街の中心に建つランス美術館は、近代以降、シャンパン醸造や繊維産業によって財を成した地元の蒐集家からの作品寄贈を受けて発展し、特に同地の主要なシャンパン・メゾン、ポメリー社の経営者アンリ・ヴァニエ(1832-1907)が遺贈したコレクションをその中核としています。
とりわけフランス近代風景画のコレクションが特筆され、19 世紀の最も重要な風景画家の一人であるジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796-1875)の作品を27点、ルーヴル美術館に次ぐ規模で所蔵することでも知られています。
本展は、ランス美術館所蔵の珠玉の油彩画作品を中心に、版画・資料も合わせた約80点によって、約100年にわたる風景画の展開を一望する展覧会となります。
17 世紀以降、フランスの風景画は神話や物語が伴う理想的風景として表現され、アトリエの中で合成・再構成された架空の自然が描かれました。しかしながら、19 世紀に入ると、持ち運びが容易なチューブ入り絵具の発明によって、アトリエの外での制作が容易になります。鉄道網の発達も相まって、画家たちは様々な場所に赴いてリアルな風景に向き合い、明るい光の下で観取した自然の瑞々しさや力強さ、輝きを生き生きと表現するようになりました。
本展では、コローの師であるアシル=エトナ・ミシャロン(1796-1822)、ジャン=ヴィクトール・ベルタン(1767-1842)の理想化から写実へ向かう風景画を皮切りに、手つかずの自然のありのままの姿を捉えたギュスターヴ・クールベ(1819-1877)、田舎や郊外の田園風景に惹かれたバルビゾン派、旅の記憶に叙情を交えて描いたコローなど珠玉の作品を紹介します。そして、戸外制作の先駆者の一人であり、水と大気と光の変化を画面に定着しようとしたウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)から、風景を輝かしい色彩によって光そのものとして表現するにいたるクロード・モネ(1840-1926)ら印象派への道筋をたどります。