長野県松本市に生まれた三代澤本寿(1909 ― 2002)は、染色家として数々の優れた作品を手掛けると共に、長野県松本の民藝運動の普及に尽力した人物でもあります。
地元の松本商業学校を卒業した三代澤は親戚の染料店を手伝う為に静岡に移り、そこで民藝運動に出会います。同じ頃、染色家・芹沢銈介の作品に触れた三代澤は、これに強い感銘を受け染色家の道を歩み始めました。
技法は、図案の考案から染めまでの全工程を一人で行う型絵染を用い、屏風やパネル、のれんに着物など実に多彩な作品を残しました。
1939年には民藝運動の創始者である柳宗悦と出会い、生涯を通して三代澤は柳を師と仰ぎます。柳もまた若き三代澤に大きな期待と信頼を寄せ、民藝運動の機関誌である『工藝』の他、『諸国の土瓶』、『日田の皿山』といった柳の代表的な著作の装幀を任せました。
柳が没してから民藝運動の中心を離れていく三代澤は、信州の山々を歩きはじめ、クラシック音楽に親しみ、取材旅行と称して積極的に海外に赴くようになります。この時代の作品には、故郷の山々やそこに息づく動植物、異国の街並み、遺跡、音楽など、自らの心を震わせた様々なものがモチーフとして登場します。そこには、雄大な自然や人々の暮らしへ向ける温かな眼差しが感じられるでしょう。
本展は、関西において150点以上の三代澤作品をご覧いただける貴重な機会です。時に愛らしく、時に大胆に、時に詩的に。生き生きとした色とかたちが織りなす三代澤本寿の世界をお楽しみください