第13回 今西彩子(鎌倉市鏑木清方記念美術館 学芸員)
鎌倉市鏑木清方記念美術館の今西彩子です。当館は近代日本画の巨匠・鏑木清方(かぶらききよかた)の旧居跡に建つ美術館です。
清方の没後、ご遺族が画家の創作の場と画業を後世に永く伝えてほしいという主旨のもと、残された作品資料や土地、建物を鎌倉市に寄贈され、1998年に開館しました。
中村屋サロン美術館の太田さんがおすすめポイントとして挙げてくださったように、日常から離れた静かでゆったりとした時間と、再現した画室からは清方の創作の気配を感じることができ、清方芸術をより深くお楽しみいただけます。
定期的に発行する叢書図録は、幅広い清方の画業を中心に、調査研究の成果をまとめ、現在21冊を数え、高く評価いただいています。また子ども向けに日本画や多色摺り木版画、石版画のつくり方をわかりやすく解説した冊子も発行しており、これは大人の方が好んで読んでくださっています。
鎌倉市鏑木清方記念美術館 画室
私のおすすめミュージアム
リアス・アーク美術館
私のおすすめは、宮城県気仙沼市の丘陵にあるリアス・アーク美術館です。
方舟(はこぶね)をモチーフにデザインされた個性的な建物につながる細いスロープを抜けて美術館の2階にある入口をくぐると、出迎えてくれるのは海と共に生きてきた町・気仙沼の民俗資料です。リア美(リアス・アーク美術館のかわいらしい略称です)は美術館ですが、歴史民俗資料も展示されている博物館のような美術館なのです。市民の約7割の方が水産業に従事しているというこの地域の豊かな食生活を物語る資料が「方舟日記」として展示されています。また東北から北海道で活動する作家による幅広いジャンルの作品も展示され、特別企画展やさまざまなシリーズ展も開催されています。
必見は一階の常設展「東日本大震災の記録と津波の災害史」。同館の学芸員さんたちが命がけで記録収集された多種多様な被災物に、そのものにまつわる物語がキャプションとして付されています。被災物や記録写真を見て、一つ一つの文章を読んでいくと、身体の感覚が強く揺さぶられます。大震災直後の極限状態に身を置き、生活の再生が第一義とされるなかで、文化の力を信じ、地域の復興のために学芸員として何をすべきかを徹底して考え、行動された皆さんには深い敬服の念しかありません。
リア美に行くと、この地域の暮らしや文化のずっしりとした重みを感じます。それは、文化の力によって気仙沼を豊かにしたいというリア美の皆さんのひたむきな思いや強い信念が、展示物を通して響いてくるからです。リア美の活動を聞く度に、いち学芸員として胸が熱くなる思いがします。
次に訪問するときには、空中に突き出たガラス張りの展望スペースから一望できる気仙沼の風景や、フカヒレやメカジキなど、食のまち気仙沼も存分に楽しみたいです。
リアス・アーク美術館 外観
リアス・アーク美術館 東日本大震災の記録と津波の災害史(1F常設展示)