第5回 山塙菜未(ポーラ美術館 学芸員)
ポーラ美術館学芸員の山塙です。箱根の森の中にたたずむポーラ美術館は、ポーラ創業家2代目の鈴木常司(1930-2000)が戦後に収集したコレクションを中心として、様々な企画展を開催してきました。近年は展覧会やコレクションの幅を広げ、近代美術にとどまらず、現代美術の紹介にも積極的に取り組んでいます。
私は日本近代美術が専門なので、明治~大正期に活躍した日本人画家の作品を取り上げる機会が多いのですが、彼らが影響を受けたゴッホやセザンヌの作品を活用したり、化粧道具のコレクションをごそごそ探って、「女性のよそおい」をテーマに女性像の作品と一緒に紹介したりと、展示内容を考えるうえで収蔵品の豊かさにはいつも助けられています。
椎野さんが紹介してくれた「森の遊歩道」も当館のアピールポイントのひとつです。野外彫刻や音のインスタレーションを楽しみながら、鳥のさえずりや木々のざわめきにも耳を傾けて、非日常を味わってもらえると嬉しいです。食事中の鹿の親子に遭遇したこともあります。近くで見ると結構怖いです。
来年はいよいよ開館20周年。4月9日からは記念展「モネからリヒターへ」(~9月6日)が開幕し、近年新たにコレクションに加わった作品もたくさんお披露目しますので、ぜひ遊びにいらしてください。
Connections―海を越える憧れ、日本とフランスの150」展(2020-2021年) 会場風景 🄫Yurika Kono
私のおすすめミュージアム
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
さて、「おすすめミュージアム」第5回ということで、思いきって首都圏を飛び出し、遠く四国まで足を延ばしてみたいと思います。
ご紹介したいのは、香川県にある「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」。丸亀駅の目の前に位置する「超・駅近美術館」です。丸亀市ゆかりの画家・猪熊弦一郎(1902-1993)により寄贈された豊富な猪熊作品を鑑賞できるだけでなく、エッジの利いた現代美術の展覧会を堪能できる場所です。
なんといっても、谷口吉生が設計した建物の美しさに惚れ惚れします。エントランスに至るまでのゆったりとしたファサードはまさに美術館の顔で、猪熊の遊び心あふれる屋外オブジェや巨大な壁画が出迎えてくれます。大竹伸朗展の際には、「宇和島駅」のノスタルジックなネオンサインがこのファサードの上に設置されるという粋な演出もありました。直線的な構造のシンプルな建築ですが、冷たい雰囲気はなく、柔らかな自然光が射し込む内部に足を踏み入れると、洗練された居心地の良い空間に心と体が妙に馴染むのです。
回廊のようなスペースや7mの天井高を誇る空間など、それぞれの展示室の特性に合わせて作り込まれた美しいインスタレーションには毎回感動します。遠くてなかなか行けるチャンスがありませんが、四国に上陸した際にはまた必ず訪れたい美術館です。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 外観
撮影:増田好郎
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 展示室C
撮影:増田好郎